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急性胃炎

急性胃炎とは

急性胃炎とは、胃の粘膜に炎症が生じて、急激な腹痛、お腹の張り、吐き気・嘔吐、発熱などがみられる病気です。
急性胃炎は、胃の風邪(かぜ)として、季節の変わり目に起こりやすく、辛いものやアルコールの過剰摂取、ストレスなども原因となります。
炎症がひどくなることで、吐血・下血(黒色便)を伴うこともあります。
急性胃炎は、数日で自然に良くなるケースがほとんどです。
一方で、食あたり(食中毒)を起こした場合は、症状が2週間以上も持続することがあり、抗生物質の投与や点滴が必要となる場合があります。
また、食中毒の場合、他人にうつす可能性があります。
業種や職場によっては、症状が改善したあとも、感染力があるために仕事を休むべき期間が生じるケースがあります。
急性胃炎に関して、治し方や仕事を休むべきかの判断基準などの細かい情報まで、消化器病専門医・内視鏡専門医・胃腸科専門医である院長が、分かりやすく・詳細に解説していきます。

急性胃炎の原因

急性胃炎の原因として最も多いのが、 ロキソニンやボルタレンといった「痛み止め(NSAIDs)」です。
次いで、飲酒(アルコール)、ストレスによるものが多いです。 急性胃炎の原因は以下のものがあります。

急性胃炎の原因 考えられるもの・病気
1. 内服薬 NSAIDs(インドメタシン、アスピリン)、抗生物質、ステロイド など
2. 感染症 ウイルス、細菌、ピロリ菌、アニサキス など
3. 食あたり(食中毒) 黄色ブドウ球菌、サルモネラ、ノロウイルス、カンピロバクター など
4.ストレス 精神的ストレス、肉体的ストレス(重症のやけど、頭部外傷) など
5. 食べ物・飲み物 唐辛子、ニンニク、アルコール など
6. 異物の誤飲 魚の骨、義歯、薬剤のPTP包装、硬貨、ボタン電池、防虫剤、タバコ、釘、洗剤(酸性・アルカリ性)、農薬 など

ニンニクの食べすぎでも、急性胃炎が生じます。
アルカリ性洗剤の誤飲では、食道炎を強く起こし、重症となることもあります。
注意が必要なのは、異物の誤飲です。
乳幼児が、ボタン電池を誤って飲み込んでしまうと、数十分〜数時間のうちに、食道や胃に穴があく可能性がありますので、緊急胃カメラが必要になります。
防虫剤は少量でも中毒となり危険ですので、早急に胃洗浄が必要となります。

食あたりの原因と症状までの時間

食あたり・食中毒も、急性胃炎の原因として多く認められます。
また、感染性胃腸炎として扱われることもあります。
①食べたものと②食べてから症状が出るまでの時間で、ある程度、病原菌を特定できます。
主な食中毒の病原菌・潜伏時間(発症までの時間)・原因食品の一覧は以下になります。

ウイルス・細菌 潜伏期間 原因となる食品
黄色ブドウ球菌 30分 おにぎり、肉・卵の加工品 など
アニサキス 3〜12時間 サバ、アジ、イカ、タラ、サケ、サンマ、カツオ、イワシなどの刺し身・寿司
腸炎ビブリオ 7,8時間 魚介類の生食 など
サルモネラ 6時間 肉、卵(卵かけご飯)、生の豚肉、マヨネーズ など
ウェルシュ菌 6時間 肉類、魚介類、野菜、煮物、カレー、シチュー、エビチリ、冷蔵庫のもの など
ノロウイルス 24時間 生牡蠣(かき) など
カンピロバクター 2日〜10日 生の鶏肉・豚肉、生乳 など(BBQで起きやすい)
エルシニア 2〜5日 生の豚肉、冷蔵庫で長期保存された食品
ボツリヌス 5時間〜3日 からしれんこん、瓶詰めの輸入オリーブ、乳児期のハチミツ
腸管出血性大腸菌O-157 1〜9日 生の牛肉、野菜、ヨーグルト など

アニサキス症では、アニサキスを胃カメラで摘出しない限り、強い腹痛が数日間持続します。
カンピロバクター、サルモネラ、エルシニアでは、血便を認めます。
ロタウイルスでは、白い下痢を認めることが特徴です。
ノロウイルスや腸管出血性大腸菌O-157は感染力が強いため、ほかの人にうつる可能性が高いです。
ノロウイルスの場合、吐物や吐物と一緒に出る水蒸気(霧)でも、感染します。
また、その他の病原菌でも、感染している方と直接、接触することで感染する可能性はあります。

急性胃炎の症状

急性胃炎の症状として以下のものがあります。

  • みぞおちの痛み(胃痛)
  • お腹の張り
  • 吐き気、嘔吐
  • げっぷ
  • 食欲不振
  • 発熱
  • 吐血
  • 下血

急性胃炎は突然発症し、症状のある期間が2〜7日と短いことが特徴です。
急性胃炎に伴う胃痛は、痛みの部位が不明瞭で、漠然とした痛みとなり、痛みに波があることが特徴です。
胃の炎症が続くことで、胃の動きが悪くなるため、お腹の張り吐き気・嘔吐、げっぷが生じます。
また、食欲不振となり、炎症が強いときには食べてもすぐに吐いてしまうことがあります。
急性胃炎が続くことで出血を生じて、吐血・下血を起こすこともあります。
この場合、海苔の佃煮のような黒っぽいものを吐いたり、黒色便でとなることが多いです。
魚の骨などが消化管に刺さっている場合は、除去するまで痛みが持続します。

急性胃炎で緊急性が高い症状チェックリスト

急性胃炎で、以下のチェックポイントに該当する症状がある場合、緊急を要する状態である可能性があります。

上記の症状を伴う腹痛は急性腹症(緊急性の高い腹痛)の可能性が高いです。
このような症状を認める場合、救急車を呼ぶことを検討し、すぐに消化器内科へ受診しましょう。

急性胃炎の検査・診断

原因となる病気を診断するために、以下の検査を行います。

  • 胃内視鏡検査(胃カメラ)
  • 血液検査
  • 胸部レントゲン検査
  • 胸部CT検査

検査として最も有用なのは、胃カメラです。
胃カメラでは、病気を診断できるだけでなく、組織を採取することで、病原菌を特定することができます。
また、出血源を認めた場合、その場で止血処置を行ったり、魚の骨やボタン電池などの異物を除去することも可能です。
その他、炎症や貧血の度合いをチェックするために、血液検査を行います。
食道や胃の穿孔(穴があいている)を疑う場合、胸部レントゲン・CT検査で評価します。

表層性胃炎の内視鏡画像

表層性胃炎では、縦に伸びる赤線(線状発赤)を認めるのが特徴です。

びらん性胃炎の内視鏡画像

縦に長いびらん(線状びらん)を認めます。
線状びらん(白い部分)の炎症で、まわりが赤くなっています。
線状びらんは、数カ所あることが一般的です。

たこいぼ胃炎の内視鏡画像

なだらかな盛り上がりの中心にびらんを伴う胃炎です。
こういった盛り上がりが、多発することが特徴です。

急性胃炎の治療・治し方

急性胃炎の治療は、

  1. 胃酸を抑える胃薬(酸分泌抑制薬)
  2. 胃粘膜を保護する薬(防御因子増強薬)

の内服が基本となります。
その他、防虫剤・タバコの誤飲に対しては、鼻から胃に管を入れて、大量の水で洗浄する(胃洗浄)を行います。
また、胃カメラにて異物を認めた場合には異物除去を行い、出血を認めた場合は止血処置を行います。

治療薬の一覧

内服薬は①酸分泌抑制薬、②防御因子増強薬、③漢方薬を患者様の症状にあわせて組み合わせて使用します。
急性胃炎で使用する内服薬の一覧を、以下にお示しします。

治療薬の一覧

③漢方薬

急性胃炎で使用する漢方薬は以下のとおりです。

漢方薬の一覧

漢方薬 改善させる症状
六君子湯 胃痛、食欲不振、吐き気・嘔吐
半夏瀉心湯 げっぷ、胸焼け、消化不良
茯苓飲合半夏厚朴湯 ストレスに伴う胃炎
大建中湯 お腹の張り(腹部膨満感)
柴苓湯 吐き気、食欲不振
十全大補湯 食欲不振、だるさ

胃カメラを用いた薬包(PTP包装)の除去

誤って、薬包ごと薬を飲み込んでしまった方の内視鏡画像です。

薬包を鉗子で掴んで、摘出できました。

胃カメラを用いた魚骨の除去

こちらは摘出した魚骨の内視鏡画像です。 大きな魚骨が食道と胃のつなぎ目(胃・食道接合部)に刺さっていました。

このような異物の除去に関しては、飲み込んでしまってからすぐに摘出することが重要です。
飲み込んでしまってから時間が経ってしまうと、異物が食道や胃の粘膜に刺さってしまい、炎症を起こしたり摘出しづらくなってしまうためです。

急性胃炎の対処法

食事や日常生活で胃に負担をかけてしまうことで、症状が悪化するだけではなく、胃潰瘍に発展して出血をきたす可能性があります。
急性胃炎になってしまった場合、胃に負担をかけないようにすることが大切です。

食事に関して

酸分泌抑制薬を内服していると、食事の影響はほとんど受けませんので、食べてはいけないものはありません。
そのため、コーヒー・紅茶、アルコール類なども適量であれば、問題なく飲むことができます。
ただし、症状が強く出ている場合には摂取を控えましょう。
また、暴飲・暴食は避けましょう。
おすすめする食べ物、気をつけたほうがよい食べ物として以下のものがあります。

消化の良いもの
(おすすめする⾷べもの)
消化の悪いもの
(⾷べないほうがいいもの)
  • ご飯、おかゆ
  • 素うどん
  • 食パン
  • スープ
  • 乳製品(牛乳、豆腐、チーズ)
  • 加熱した卵
  • 火の通った野菜
  • 煮た大根やニンジン
  • 脂身の少ない肉類
  • 加熱した白身魚、はんぺん
  • りんご、バナナ、桃
  • ヨーグルト
  • プリン、ゼリー など
など
  • 脂肪の多い食事
    炒飯、ラーメン、とんかつ、焼き肉、天ぷら、カレーライス など
  • 胡椒、唐辛子を多く使った料理
    唐揚げ、手羽先、チゲ鍋、四川料理 など
  • スイーツ
    チョコレート、ケーキ、洋菓子、ドーナツ、アイスクリーム など
  • 刺激のある飲み物
    コーヒ-、紅茶、炭酸水、炭酸飲料、アルコール など
  • 消化しにくいもの
    たこ、イカ、貝類、くらげ、ごぼう、たけのこ、れんこん、山菜、きのこ類、こんにゃく類、海藻、パイナップル、梨(なし)、ぶどう 豆類、サツマイモ  など

たばこに関して

喫煙は胃の血流を低下させ、胃炎の治りを悪くさせます。
そのため、胃炎の初期であったり、症状が強く出ている場合、タバコは控えましょう。

生活面に関して

十分な睡眠時間を確保し、規則正しい生活を行うことで、ストレス解消に努めましょう。
ノロウイルスに感染していた場合、症状が落ち着いた後も1週間〜1ヶ月程度、便にウイルスが排出されるといわれています。
食中毒となった後は、症状が改善した後も十分な手洗いを徹底するようにしましょう。

仕事を休むべきかの判断基準

急性胃炎で、仕事を休むべきかどうかは、患者様の状態や原因によって変わります。
食あたりが原因で、38℃以上の発熱がある場合や、嘔吐が下痢が頻回である場合、感染性がある可能性が高いです。
カンピロバクターやサルモネラなどの細菌は、手で触れたものから感染します。
ノロウイルスの場合、さらに感染力が強く、触れたもの以外にも、嘔吐した吐物や吐物と一緒に出る水蒸気(霧)でも、他人にうつります。
そのため、感染している病原菌や職種によって、仕事を休む基準は異なります。
サービス業や人と直に触れる仕事の場合、症状が落ち着くまでは仕事を控えましょう。
また、症状が落ち着いてからも、数日から10日程度、排菌している可能性があります。
まずは職場に現状を報告して、休むべきか指示を仰ぎましょう。

急性胃炎の大半は、すぐによくなってしまうものが多いですが、なかには短期間のうちに強い腹痛を認めたり、日常生活が制限されることがあります。
また、食中毒である場合、職場や周りの方々に感染させてしまうリスクがあり、職種によっては仕事を休まなければならないケースもあります。
いつもと違う胃痛である場合や、症状が数日で改善しない、あるいは市販薬で改善しない場合は消化器内科への受診を検討しましょう。
少しでも気になることがあれば、当院へお気軽にご連絡ください。

参考文献:

胃と腸アトラスⅠ 上部消化管 第2版 医学書院

内視鏡診断のプロセスと疾患別内視鏡像-上部消化管 改定第4版 日本メディカルセンター

最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針 中山書店
日本感染症学会 JAID/JSC 感染症治療ガイドライン 2015 ―腸管感染症―
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/guideline_JAID-JSC_2015_intestinal-tract.pdf

厚生労働省登録検査機関・登録衛生検査所 町田予防衛生研究所 食中毒は何時間後に発症する?
https://www.mhcl.jp/workslabo/hatena/senpukukikan#bb
日本小児外科学会 消化管異物
http://www.jsps.or.jp/archives/sick_type/shoukakan-ibutsu