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食欲不振

食欲不振とは

食欲不振とは、食欲が低下している、または食欲がない状態のことです。
食欲不振は、強い不安やストレス、過労、睡眠不足、夏バテなど、不規則な日常生活・自律神経の乱れなどが原因となって生じるケースが多いです。
また、胃や腸の病気のほか、ホルモン異常、妊娠、感染症、がん、臓器不全、認知症、うつ病など、さまざまな病気が原因で生じます。
一般的に、食欲不振の強さと期間に比例して、体重減少が進んでいきます。
体重減少を伴う食欲不振は、病気が隠れている可能性が高く、注意が必要です。
食欲不振に吐き気を伴う場合、無理に食べないほうが良く、点滴が必要な場合があります。
1週間以上、食欲がない状態が続いている場合は、消化器内科へ受診しましょう。
食欲不振に関して、原因となる病気や改善策などの細かい情報まで、消化器病専門医・内視鏡専門医・胃腸科専門医である院長が、分かりやすく・詳細に解説していきます。

食欲不振とは

食欲不振の症状

以下の症状を認める場合、食欲不振の可能性が高いです。

  • 2,3日まともに食べてないのに食欲がない
  • 美味しいものを見ても、だ液が出ない
  • 食べてないけど、お腹が空かない
  • 食べたい気持ちはあるが、あまり食べられない

病院へ行く目安の状態としては、以下のものがあります。

  1. 症状が1週間以上続いている場合
  2. 2日以上食事がまともに食べれていない場合

いずれかに該当する場合、なるべく早めに消化器内科へ受診しましょう。

食欲不振に伴う症状

食欲不振に、吐き気・嘔吐腹痛、発熱、黄疸、動悸、むくみ、貧血症状、出血しやすい、倦怠感などの症状を伴うことがあり、診断に重要な手がかりとなります。
また、食欲不振が続くことで、腸の運動が低下し、便秘になりやすくなります。
食欲不振に伴う主な症状として、以下のものがあります。

伴う症状 考えられる病気
・吐き気 ・嘔吐 急性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、感染性胃腸炎、腸閉塞、胃がん、食道がん、上部消化管出血、急性肝炎、急性膵炎、急性胆嚢炎、胆嚢結石 など
・腹痛 ・胃痛 急性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、感染性胃腸炎、萎縮性胃炎、腸閉塞、胃がん、急性膵炎、急性胆嚢炎、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群 など
・発熱 急性胃炎、感染性胃腸炎、急性上気道炎、急性肝炎、急性胆嚢炎、急性膵炎 など
・黄疸 急性肝炎、急性胆管炎、急性膵炎、 すい臓がん など
・動悸 自律神経失調症、うつ病 など
・むくみ 慢性心不全、慢性腎不全、肝硬変、 肺がん、COPDなど
・貧血 胃潰瘍、十二指腸潰瘍、食道がん、 胃がん、大腸がん など

食欲不振で緊急性が高い状態とは?

食欲不振に伴い、以下のチェックポイントに該当する症状がある場合、緊急を要する状態である可能性があります。

食欲不振で緊急性が高い状態とは?

このような症状を認める場合、すぐに医療機関へ受診しましょう。

食欲不振のメカニズム

 

なぜ、食欲不振が起こるのでしょうか?
食欲には脳の視床下部にある「摂食中枢(食欲中枢)」が関係しています。

食欲不振のメカニズム

通常、胃の中が空っぽになることで、摂食中枢が刺激されて、食欲が出てきます。
この摂食中枢に作用するホルモンとして、

  1. グレリン
  2. レプチン

が知られています。
グレリンは、胃から産生されるホルモンで、摂食中枢を刺激することから「食欲ホルモン」とよばれています。
レプチンは、脂肪細胞から産生されるホルモンで、摂食中枢を抑制する作用があります。
また、ストレスやうつ状態になると、セロトニンが関与して摂食中枢に抑制することで、食欲が低下するといわれています。
運動したり、興奮している状態のときにお腹がすかないのは、アドレナリンが出ているためです。

摂食中枢を刺激するもの・抑制するものの一覧を以下にお示しします。

摂食中枢を刺激
(食欲アップ)
摂食中枢を抑制
(食欲不振)
・グレリン
・遊離脂肪酸
など
・レプチン
・インスリン
・ストレス
・うつ状態
・ブドウ糖(血糖)
・カテコールアミン   
・ドーパミン   
・ノルアドレナリン   
・アドレナリン
・甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)
など

また、摂食中枢のある視床下部では、ホルモンだけでなく、視覚・味覚・嗅覚・聴覚の情報もインプットされて、空腹感や満腹感を自覚させるという仕組みがあります。

⾷欲不振の原因となる病気

⾷欲不振の原因は、多種多様であり、多くの臓器と関係しています。以下に病気の⼀覧をお⽰しします。

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原因となる臓器・異常 考えられる病気
消化管 急性胃炎
胃潰瘍、・⼗⼆指腸潰瘍
感染性胃腸炎
・腸閉塞(イレウス)
・便通異常(便秘下痢
機能性ディスペプシア
逆流性⾷道炎
・⾷道アカラシア
過敏性腸症候群 など
肝臓、胆嚢、すい臓 ・急性肝炎
・急性膵炎
・急性胆嚢炎 など
感染症 ・急性上気道炎(かぜ)
・感染性胃腸炎 など
がん(悪性腫瘍) ⾷道が
胃がん
⼤腸がん
・すい臓がん
・肺がん
・膀胱がん
・脳腫瘍
・悪性リンパ腫 など
ホルモン ・甲状腺機能低下症
・下垂体前葉機能低下症
・アジソン病 など
ミネラルバランス ・⾼カルシウム⾎症
・低カリウム⾎症 など
腎臓 ・慢性腎不全
・⻑期透析 など
免疫 ・関節リウマチ
・全⾝性エリテマトーデス(SLE)
・シェーグレン症候群
・⼤動脈炎症候群(⾼安病)
・強⽪症など
⼦宮 ・妊娠悪阻(つわり) など
精神(メンタル) ・うつ病
・神経性⾷思不振症
・⾃律神経失調症
・認知症 など
薬剤の副作⽤
(⾷欲不振になる薬)
・抗精神病薬
・抗がん剤 など
・オピオイド(医療⿇薬)
・ジキタリス(強⼼薬)
・鉄剤
・痛み⽌め(NSAIDs)

このほか、⾍⻭⼝腔機能の低下、義⻭の噛み合わせが悪いことが原因で、⾷欲不振となります。
病気ではありませんが、「ストレス」、「過労」、「睡眠不⾜」といった⽇常⽣活の乱れが原因 で、⾷欲不振が⽣じることがあります。
また近年では、神経性⾷思不振症やうつ状態による⾷欲不振が増加傾向にあります。

⾷欲不振の検査・診断

 

⾷欲不振の診断は、まず問診していくことで、⾷欲不振に伴う症状の有無を確認します。
また、体重減少を伴っているかどうかが重要であり、状態によっては⼊院治療が必要となることもあります。
⾷欲不振の原因を診断するために、以下の検査を患者様の状態に合わせて⾏います。

  • ⾎液検査、尿検査
  • 胃カメラ(胃内視鏡検査)
  • ⼤腸カメラ(⼤腸内視鏡検査)
  • 胸部レントゲン検査
  • ⼼電図検査
  • 超⾳波検査(エコー)
  • CT検査
  • MRI検査

⾎液検査で、炎症や貧⾎の度合いやホルモン、ミネラルバランスなどを評価します。
⾷欲不振を起こす最も頻度の⾼い臓器は、⾷道・胃・⼤腸といった消化管であるため、胃カメラ⼤腸カメラで評価していきます。
問診から、肺や⼼臓の病気が疑われる場合、胸部レントゲン、⼼電図、胸部CTなどを⾏います。
腹部エコーは、膵炎や胆嚢炎などを疑った場合に⾏います。
がん(悪性腫瘍)が疑われる場合、CT・MRIを検討します。
検査を⾏った結果、異常が⾒つからない場合、機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群といった胃や腸の機能異常や、神経性⾷思不振症、うつ病のような精神的な疾患の可能性が考えられます。

⾷欲不振の治療

⾷欲不振の原因となっている病気の治療を⾏っていきます。
消化管の病気である場合、以下の3つの内服薬を使⽤します。

  1. 胃薬(酸分泌抑制薬)
  2. 胃の動きを良くするお薬(消化管運動改善薬)
  3. 漢⽅薬

これらを組み合わせて治療を⾏っていくことで、⾷欲不振の改善が望めます。
また、吐き気を強く伴う場合、飲み薬では吐いてしまう可能性があるため、点滴加療が有効です。

治療薬の⼀覧

治療薬の⼀覧

漢⽅薬の⼀覧

漢⽅薬 改善させる症状
六君⼦湯 ⾷欲不振、吐き気、消化不良、胃痛
半夏瀉⼼湯 消化不良、げっぷ、胸焼け、⼝内炎
⼗全⼤補湯 ⾷欲不振、だるさ
茯苓飲合半夏厚朴湯 ストレスに伴う胃炎、不安神経症
⼤建中湯 お腹の張り(腹部膨満感)、腹痛
柴苓湯 胃腸炎、吐き気、⾷欲不振
桂枝加芍薬⼤⻩湯 お腹の張り、便秘
⿇⼦仁丸 便秘
⼤⻩⽢草湯 便秘
⼈参湯 下痢

また、神経性⾷思不振症(神経性やせ症)やうつ病に関しては、⾃然に治ることはほとんどありません。
疑われる場合には、⼼療内科をご紹介させて頂きます。

⾷欲不振の改善策

⾷欲不振の改善⽅法として、⽇常⽣活・⾷習慣の改善を⾏うことで症状の改善が期待できます。
⽣活リズムが乱れている場合には、規則正しい⽣活を取り戻し、⾃律神経の正常化を促します。
睡眠時間も⼗分に確保し、ストレスを軽減させることが重要です。
⾷欲がないときには、胃や腸を刺激しない消化の良いものを⾷べるようにしましょう。
また、⽔分は必ずこまめに取るように⼼がけましょう。
⾷べたほうがいいもの(おすすめする⾷事)・⾷べないほうがいいもの(控えるべき⾷事)の⼀覧をいかにお⽰しします。

おすすめの⾷べ物・気をつける⾷べ物の⼀覧

消化の良いもの 気をつける食べ物
  • ご飯、おかゆ
  • 素うどん
  • 食パン
  • スープ
  • 乳製品(牛乳、豆腐、チーズ)
  • 加熱した卵
  • 火の通った野菜
  • 柔らかく煮た大根やニンジン
  • 脂身の少ない肉類
  • 加熱した白身魚、はんぺん
  • りんご、バナナ、桃
  • ヨーグルト
  • プリン、ゼリー
など
  • 脂肪の多い食事
    炒飯、ラーメン、とんかつ、焼き肉、天ぷら、カレーライス など
  • 胡椒、唐辛子を多く使った料理
    唐揚げ、手羽先、チゲ鍋、四川料理 など
  • スイーツ
    チョコレート、ケーキ、洋菓子、ドーナツ、アイスクリーム など
  • 刺激のある飲み物
    コーヒ-、紅茶、炭酸水、炭酸飲料、アルコール など
  • 消化しにくいもの
    たこ、イカ、貝類、くらげ、ごぼう、たけのこ、れんこん、山菜、きのこ類、こんにゃく類、海藻、パイナップル、梨(なし)、ぶどう 豆類、サツマイモ など

また、タバコに含まれるニコチンは、摂⾷中枢(⾷欲中枢)に作⽤して、⾷欲を減退させるので控えるようにしましょう。

⾷欲不振は、⼀時的なストレスや過労などによって起こる症状ですが、持続する場合には病気や病変が隠れているケースがあります。
また、市販の胃薬や整腸剤で症状が改善しない場合でも、医療機関で処⽅できる内服薬で改善するケースも数多くあります。
⾷欲不振でお困りの⽅は、まずはお気軽に当院へご相談ください。

参考文献:

最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針 中⼭書店
⽇本内分泌学会 神経性やせ症
http://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=59
⽇本緩和医療学会 ⾷欲不振
https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/gastro_2017/02_07.pdf
⽇本⼩児神経学会 グレリンによる摂⾷障害のメカニズム
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/43/2/43_87/_pdf/-char/ja