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⾎便・下⾎

血便・下血とは

血便とは、肛門から血液あるいは血液を含む便が出ることを指します。
便の表面に血が付着している場合も、血便と定義されます。

下血とは、厳密には、食道や胃などの上部消化管からの出血が便としてみられることであり、黒色便(タール便)のことを指します。
「吐下血」という言葉があるように、食道・胃・十二指腸からの出血を吐血・下血といいます。

血便は、消化管以外でも、動脈瘤や肝臓・胆嚢・すい臓の病気でみられることがあります。
10代の中学生や高校生、20〜30歳代の若い方でも、痛みを伴わず血便を認める場合、いぼ痔や、若年性ポリープなどがある可能性があります。
また、「ストレス」が原因で起こる過敏性腸症候群でも、血便が生じます。
血便が多量となると、緊急で大腸カメラでの止血処置や、輸血が必要になるケースもあります。

「1回だけしか血便が出ていないから問題ないか」と侮らずに、血便を認めた場合は、早めに消化器内科へ受診しましょう。

血便・下血に関して、原因や、鮮血〜黒っぽい便が出る部位などの細かい情報まで、消化器病専門医・内視鏡専門医・胃腸科専門医である院長が、分かりやすく・詳細に解説していきます。

血便・下血 専門医による徹底解説

血便の原因

血便の主な原因は、大腸や肛門からの出血であり、下血は食道・胃・十二指腸からの出血が原因で生じます。
ストレスにより、急性胃炎胃潰瘍・十二指腸潰瘍を生じることで、下血を生じることもあります。

下血の場合、一般的に胃痛を伴い、黒っぽい便となります。出血量が多い場合は、赤黒い便や鮮血の便が出ることもあります。

主な血便の原因となる病気の一覧を以下に示します。

  • 虚血性腸炎
  • 大腸憩室出血
  • いぼ痔(ぢ)・切れ痔
  • 潰瘍性大腸炎、クローン病
  • 過敏性腸症候群
  • 大腸ポリープ
  • 大腸がん
  • 小腸がん
  • 薬剤性腸炎
  • 感染性胃腸炎
  • メッケル憩室

など

1つずつ簡単に解説していきます。

虚血性大腸炎

虚血性腸炎は、腸内の動脈が狭くなり、腸を栄養する血管の血流が悪くなることで発症します。
突然、お腹の左側の痛みを認め、下痢、血便をきたします。

動脈硬化の原因となる高血圧、糖尿病、喫煙する方などに多くみられるのが特徴です。
その他、便秘、高脂肪食、 生活習慣の乱れ・運動不足・過度のストレスなどが原因となります。

大腸憩室出血

大腸憩室とは、大腸にできるポケットのような袋状のものです。食生活の欧米化や便秘、加齢が原因となり、大腸に生じます。
日本では憩室出血は増加傾向にあります。

大腸憩室出血の再出血率は、1年後で20〜35%、2年後で33〜42%といわれており、血便が再発する可能性が高いという特徴があります。

いぼ痔・切れ痔

いぼ痔とは、排便時のいきみなどが原因で生じる静脈の瘤(こぶ)のことです。
重いものを扱う職業の方や、長時間座ってデスクワークされている方に多く見られます。
肛門の痛みや腹痛がなく、鮮血の血便が出た場合、いぼ痔を考えます。

切れ痔とは、肛門にできる切り傷やびらん・潰瘍のことです。
比較的若い女性に多く、便秘が原因で生じます。
排便時や排便後に強い痛みを認め、出血(血便)をきたします。
生活習慣の改善や、便通を良くすることで改善します。

潰瘍性大腸炎・クローン病

腸に炎症をおこす病気である炎症性腸疾患には、潰瘍性大腸炎とクローン病があります。
いずれも国が特定疾患(いわゆる難病)に指定している病気です。

潰瘍性大腸炎は、大腸に炎症をおこす病気で、20〜30歳代に多いですが、若年者から高齢者まで発症します。
1990年以降、日本では急激に患者数が増え続けています。
大腸だけでなく、目や関節などに症状がでたり、ポリープががん化したりすることもあるため、早期発見・早期治療を行うことが重要です。

クローン病は、潰瘍性大腸炎と似ていますが、口から肛門までのすべての消化管に炎症が起こる可能性があることが特徴です。
また、10~20歳代の若者が発症することが多く、男女比は2対1と男性に多い病気です。
クローン病では炎症が強く起こるため、小腸や大腸に潰瘍を生じて、下痢や腹痛、血便、体重減少などが生じます。
そのほか、口内炎や関節炎、皮膚の症状など全身のあらゆる部位に症状がみられます。

過敏性腸症候群

過敏性腸症候群は、大腸や小腸に腫瘍や炎症といった病気がないにもかかわらず、腹痛や腹部の張りなどの違和感、便通の異常が認められる病気です。
数か月以上にわたって腹痛のほか、便秘・下痢などの排便異常を起こします。
下痢が頻回になることで、血便が生じます。

日本人のおよそ10%の方が罹患しているといわれており、ストレスが大きな原因です。
過敏性腸症候群はストレスの増加に伴い増加してきており、20~40代の方に多いです。

便秘でいきんだ際や、水様下痢で腸に圧がかかった場合、肛門や直腸の粘膜が裂けて、出血(血便)をきたします。

大腸ポリープ

大腸ポリープとは、大腸の粘膜の表面から盛り上がっている球状の瘤(こぶ)のことです。
10歳〜30歳代の若い方でも、痛みを伴わず血便を認める場合、「若年性ポリープ」などの出血をきたすポリープがある可能性があります。
出血をきたしているポリープを認めた場合、その場でポリープ切除を行います。

大腸がん

大腸がんの早期には、症状はほとんど出現せず、無症状です。
がんが進行することで、血便や腹痛を認めます。
大腸がんの原因やリスク因子には、食の欧米化(高タンパク・高脂肪食)や加齢、野菜・果物の摂取不足、肥満、運動不足、アルコールの多飲、喫煙(タバコ)などがあります。

日本では近年、大腸がんと診断される患者様が急増しており、年間5万人以上の方が大腸がんで命を落としている現状があります。
その一方で、早期がんで発見されれば、大腸カメラにて内視鏡的に切除・完治することが可能であります。

小腸がん

小腸がんの初期の段階では、無症状のことが多く、がんが進行することで、血便(下血)や腸閉塞を起こします。
近年、カプセル内視鏡の普及により、小腸がんが比較的早期に発見され、内視鏡治療できるケースが増えています。

薬剤性腸炎

薬剤の内服が原因で生じる腸炎です。
痛み止め(NSAIDs)、抗生物質、抗がん剤などの内服により、腹痛や血便を起こします。

抗生物質では、ペニシリン系の抗生物質でトマトジュースのような下痢(血性下痢)が生じることがあります。
抗生物質の内服して1〜7日後に、突然の血性下痢と腹痛で発症します。
抗生物質による出血性大腸炎は、便の培養検査で、「クレブシエラ」という細菌が高率に認められます。


抗生物質による出血性大腸炎の内視鏡画像

セフェム系の抗生物質を内服して、数日後に突然の腹痛と血性下痢を認めました。
大腸のなかに潰瘍と出血を認め、便の培養にて「クレブシエラ」が検出されました。

感染性胃腸炎

感染性胃腸炎とは、細菌、ウイルス、寄生虫・原虫の感染により生じる胃腸炎です。
血便や腹痛、下痢、粘液便をきたします。
通常、症状に対する治療や点滴で改善しますが、状況に応じて抗生物質の投与を検討します。

血便をきたす病原菌は以下のものがあります。

血便を生じる病原菌の一覧

血便を生じる病原菌
細菌 ・サルモネラ
・カンピロバクター
・腸管出血性大腸菌(O-157)
・赤痢菌 
・腸チフス
・パラチフス など
ウイルス ・サイトメガロウイルス など
寄生虫・原虫 ・赤痢アメーバ など

メッケル憩室

小腸(回腸末端)にできる先天性の憩室です。
通常、無症状ですが、潰瘍が生じることで多量の血便をきたします。
治療は絶食・点滴加療を行います。
出血や穿孔などを認める場合、外科的切除を行います。

その他、膵がん、胆管がん、血液疾患(白血病、悪性リンパ腫、血友病)、膠原病(関節リウマチ、アミロイドーシス)などでも、血便・下血をきたす場合があります。

心配のいらない血便とは?

 

血便で問題ないものとして、以下のものがあります。

  • 月経(生理)
  • 直腸や肛門の粘膜が切れてしまう場合

女性の場合、生理中に便潜血検査をすることで、検査で引っかかってしまいます。
直腸や肛門の粘膜は柔らかいため、切れ痔までいかなくとも、一時的にいきんだ際に、粘膜が切れてしまって、血便が生じることがあります。

しかし、血便が心配ないものかどうかは、実際に大腸カメラで検査してみないとわかりません。
大腸がんは35歳代ころから多くなることが知られており、
「生理で血が混じったのだろう」
「少し切れていただけだろう」
と思っていたのに、実際に大腸カメラを行って大腸がんが見つかるというケースもみられます。
血便や下血が止まらない場合には、一度、大腸カメラ検査を行うようにしましょう。

血便で緊急性が高い状態とは?

血便に伴い、以下のチェックポイントに該当する症状がある場合、緊急を要する状態である可能性があります。


このような症状を認める場合、なるべく早く消化器内科へ受診しましょう。

血便・下血の検査・診断

 

問診において、飲酒歴、内服している薬剤、肝硬変の有無などを確認します。

血便の色と出血部位

また、血便の色調により、出血している部位をある程度判断することが可能です。

血便の色と出血部位
新鮮血(真っ赤な血液) 肛門〜S状結腸からの出血
赤褐色

鮮血
(赤黒い血)
横行結腸〜S状結腸からの出血
黒色(タール便) 上部消化管(食道・胃・十二指腸)からの出血
(厳密には下血と定義されます。)

これら便の色調からどの部分から出血しているかを判断し、以下の検査の実施を検討します。

  • 血液検査
  • 大腸カメラ(大腸内視鏡検査)
  • 胃カメラ(胃内視鏡検査)
  • カプセル内視鏡検査
  • 小腸内視鏡検査
  • 腹部CT検査

血液検査にて、貧血の度合いや脱水の有無などを評価します。
血便の色調からは、大腸がんと痔を区別することはできません。

そのため、大腸カメラを行い、出血源を適切に診断し、治療を行っていくことが重要となります。
胃潰瘍や食道静脈瘤など、上部消化管からの出血を疑った場合は、胃カメラを行います。
小腸からの出血やクローン病が疑われる場合、カプセル内視鏡検査・小腸内視鏡検査を検討します。

実際の大腸カメラの動画



膵がんや胆管がんなどを疑う場合、腹部CT検査を考慮します。
また、造影CT検査(ダイナミックCT)を行うことで、大腸からの出血部位を特定できることがあります。

肛門から血の塊が出てきた場合は、出血量が多いことが考えられ、止血処置が必要な状態です。
そのような場合、なるべく早めに内視鏡検査のできるクリニック・病院へ受診するようにしましょう。

血便の治療

下痢などで脱水が高度の場合、点滴による補液を行います。

貧血が高度である場合は、輸血を行います。
また、大腸カメラを行い出血源が特定できた場合、止血処置を行います。

内視鏡での止血が困難な場合、カテーテルを用いて出血している血管を詰めるカテーテル治療や外科的手術が行われる場合もあります。

まとめ

「まだ10代だし、若いから大丈夫だろう」、
「1回しか血便が出てないから問題ないだろう」
などとご自身で解釈して、血便を放置されるケースが多く見受けられます。
しかし、10〜30歳代の方でもポリープから出血をしていたり、一度だけの血便でも「大腸がん」が隠れている場合もあります。

当クリニックでは、検査に不安がある方も、安心して検査できるように「痛みのない・苦しくない大腸カメラ」を追求しています。
検査前に点滴の鎮静剤(静脈麻酔)を患者様の年齢や体重、持病などを踏まえて投与し、検査中にも適宜、鎮静剤を追加していきます。
また、大腸カメラ後になるべく早く仕事・日常生活へすぐに復帰できるように工夫を行っています。

血便だけで、ほかに自覚症状がないからと軽視せず、一度しっかりと検査を受けるようにしましょう。

参考文献:

最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針 中山書店

胃と腸アトラスⅡ 下部消化管 第2版 医学書院

内視鏡診断のプロセスと疾患別内視鏡像-下部消化管 改訂第4版 日本メディカルセンター

国立がん研究センター 有効性評価に基づく 大腸がん検診ガイドライン
http://canscreen.ncc.go.jp/guideline/colon_full080319.pdf

日本消化管学会 大腸憩室症(憩室炎・憩室出血) ガイドライン
https://minds.jcqhc.or.jp/docs/gl_pdf/G0001033/4/diverticulosis_of_colon.pdf

日本臨床外科学会 吐血・下血
https://www.ringe.jp/civic/20190603/

日本消化器病学会 「消化器のひろば」 No.13
https://www.jsge.or.jp/citizens/hiroba/backnumbers/hiroba13/hiroba13_03

日本大腸肛門病学会 感染性腸炎
https://www.coloproctology.gr.jp/modules/citizen/index.php?content_id=4

院長 鈴木 謙一(Kenichi Suzuki)

この記事の執筆者

院長 鈴木 謙一

略歴・役職

  • 埼玉医科大学医学部 卒業
  • 昭和大学横浜市北部病院消化器センター 助教
  • 山梨赤十字病院 消化器内科 医長
  • 磯子中央病院 内科(消化器内科) 医長
  • 2024年 横浜ベイクォーター内科・消化器内視鏡クリニック 横浜駅院 開業

所属学会・資格

  • 日本消化器病学会認定 消化器病専門医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
  • 日本消化管学会認定 胃腸科専門医
  • 日本内科学会認定 認定内科医
  • 神奈川県横浜市指定 難病指定医
  • 日本ヘリコバクター学会認定 H.pylori(ピロリ菌)感染症認定医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 上部消化管内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 大腸内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本抗加齢(アンチエイジング)学会 会員
  • American Society for Gastrointestinal Endoscopy member
  • United European Gastroenrerology member