萎縮性胃炎とは
萎縮性胃炎とは、胃へのピロリ菌感染にて、胃の粘膜に萎縮が生じて、慢性的な胃炎を引き起こす病気です。
原因の大半は、幼少期のピロリ菌感染です。
胃痛、胃もたれ、食欲不振などの症状を生じることがありますが、無症状のことも多いです。
しかし、萎縮性胃炎があることで、胃がんの発症リスクが5倍以上に高まります。
萎縮性胃炎を指摘されたのに、「症状がないから、心配ないだろう」と考え、放置されている方が見受けられます。
しかし、萎縮が広がれば広がるほど、胃がんのリスクが高まることが明らかになっています。
一方で、ピロリ菌除菌が成功すると、胃がんのリスクを約25%まで軽減できるといわれています。
中学生以上であれば、ピロリ菌の診断が可能であり、若いうちに除菌することで、胃がんのリスクが低くなります。
ご両親がピロリ菌に感染していた方は、まずは一度、萎縮性胃炎があるかどうか、胃カメラで検査しましょう。
萎縮性胃炎に関して、治し方や、有効な食事などの細かい情報まで、消化器病専門医・内視鏡専門医・胃腸科専門医・ピロリ菌感染症認定医である院長が、分かりやすく、詳細に解説していきます。
萎縮性胃炎と慢性胃炎について
萎縮性胃炎は、慢性胃炎の80%を占めており、一般的に「慢性胃炎」といわれる場合、萎縮性胃炎のことを指します。
下図のように、慢性胃炎というグループのなかに、萎縮性胃炎が含まれる形になります。
通常、医療機関で慢性胃炎と診断された場合、萎縮性胃炎のことを指します。
萎縮性胃炎の原因
慢性胃炎の原因は、ピロリ菌以外に
- 自己免疫性胃炎
- 放射線による胃炎
- ハイルマニ菌(Helicobacter heilmannii)
などがあります。
一方で、萎縮性胃炎は、ピロリ菌(Helicobacter pylori)感染が原因となります。
ピロリ菌のほとんどが、乳児・幼児のときに口から感染します。
ピロリ菌の感染経路として、
- 小さい頃にピロリ菌に感染している親からのキス
- 井戸水を飲む
ことが挙げられます。
ご両親がピロリ菌に感染していた人や除菌している人は、ご両親からうつっている可能性があるので一度は検査が必要です。
成人になってから感染することも、稀ながらあります。
また、以前は飲み水などに混入したピロリ菌による感染が多かったですが、現在は上・下水道の整備が進んだことでほとんど認めなくなっています。
幼少期に田舎で川遊びをして川の水を飲んだり、キャンプで山の水を飲んだりしたことがきっかけで感染していることもあります。
また、ストレスや食べ物が原因で、ピロリ菌が感染することはありません。
萎縮性胃炎の症状
萎縮性胃炎を疑うチェックポイント
こちらの萎縮性胃炎を疑うチェックポイントに該当する項目がないか、ご確認ください。
このような症状・エピソードを認める場合、なるべく早めに消化器内科を受診しましょう。
萎縮性胃炎の検査・診断
萎縮性胃炎を診断するためには、胃カメラ(胃内視鏡検査)を行う必要があります。
胃カメラを行い、ピロリ菌感染が強く疑われる場合には、血液検査・尿検査などでピロリ菌の有無を評価します。
- 胃カメラで萎縮性胃炎を確認し、
- 血液検査などでピロリ菌が陽性と判定された場合、
保険診療でのピロリ菌除菌が行なえます。
胃内視鏡検査(胃カメラ)
内視鏡所見で、ピロリ菌の働きが活発であり、炎症が強い場合、胃の粘膜に以下のような所見がみられます。
- 点状に赤くなる(点状発赤)もしくは
- 点状より少し広い範囲で赤くなります(びまん状発赤)
ピロリ菌を除菌することで、点状発赤・びまん状発赤は消失します。
また、胃の粘膜が萎縮していくことで、胃酸が分泌されなくなり、胃の粘膜は白く見えます。
萎縮粘膜(白い領域)は除菌後10年以上かけて、もとの粘膜に少しずつ置き換わっていきます。
ピロリ菌の長期的な感染により、黄色腫(おうしょくしゅ)という小さな白い盛り上がりがみられ、胃がんのハイリスク所見として知られています。
萎縮性胃炎の分類
萎縮粘膜は、胃の出口の上方(胃角部の小弯側)から口側に広がっていくという性質があります。
萎縮性胃炎の分類には「木村・竹本分類」が日本では広く普及しています。
この分類では、萎縮性胃炎のレベルを以下の2つに分類しています。
- クローズ型(Close Type)
萎縮粘膜が胃の上のほう(小弯)のみである - オープン型(Open Type)
萎縮粘膜が胃の上(小弯)以外に、前壁・後壁、胃の下(大弯)まで広がっている
クローズ型・オープン型はそれぞれ、
Ⅰ〜Ⅲの3段階に分けられます。
C-Ⅰ〜C-Ⅲ、O-Ⅰ〜Ⅲの計6個に分類されます。
クローズ型よりオープン型のほうが、萎縮粘膜が広いため、胃がんが発症しやすくなります。
萎縮性胃炎の内視鏡画像
ピロリ菌が胃のなかに感染していると、萎縮性胃炎が生じます。
萎縮した粘膜は、胃カメラで見ると白く見えます。
また、萎縮が進むことで、胃のヒダがなくなります。
※正常な胃の内視鏡画像①
萎縮粘膜(白い領域)はなく、
集合細静脈(RAC)がしっかりと見えます。
※正常な胃の内視鏡画像②
萎縮のない胃の粘膜には、細かい血管(赤)が均一に見られ、これをRAC(集合細静脈)といいます。
以下、RACの内視鏡画像です。
「RACが認められる場合、ピロリ菌はいない胃」であると判断できます。
萎縮が進行していくことでRACは消失します。
また、ピロリ菌除菌後にもRACが復活してきます。
※正常な胃の内視鏡画像③
胃のヒダがしっかり観察されます。
実際の胃カメラ動画
実際に口から胃カメラを入れてどのように観察しているかを見ていきましょう。
当クリニックで行っている観察方法をご説明致します。
胃カメラは、萎縮性胃炎の診断や、萎縮の広がりを評価するために最も有用な検査です。
ピロリ菌を調べる検査
ピロリ菌を調べる検査には、
- 胃カメラによる迅速ウレアーゼ試験
- 血液検査
- 尿検査
- 尿素呼気試験
の4つがあります。 当院では、ピロリ菌感染症認定医による「適切で精度の高いピロリ菌の診断・治療」を行っています。
ピロリ菌を調べる検査(まとめ)
以下に、ピロリ菌を調べる検査の一覧をお示しします。
これら4つの検査を患者様の状況に応じて、どの検査を行うか判断していきます。
ピロリ菌の検査費用
ピロリ菌の検査費用を以下にまとめました。 症状がない場合の胃カメラ・人間ドックでは自費となります。自費 | 保険診療(3割負担) | ||
胃カメラ + ピロリ菌検査 |
迅速ウレアーゼ試験 | 約15,000円 | 約5,000円 |
ピロリ菌検査のみ | 尿検査 | 約2,200円 | 約750円 |
血液検査 | 約4,400円 | 約1,400円 | |
呼気検査 | 約5,500円 | 約1,600円 |
※税込み価格となります。
萎縮性胃炎の治療・治し方
萎縮性胃炎の治療は、ピロリ菌の除菌治療を行うことです。
残念ながら、市販薬で治療できるものはありません。
ピロリ菌除菌が成功することで、胃がんになるリスクを約1/4(25%)まで軽減できるといわれています。
内視鏡検査で萎縮性胃炎と診断できた場合、保険診療にてピロリ菌の検査・治療を受けることが可能です。
ピロリ菌の除菌治療
ピロリ菌の除菌治療では、胃薬と抗生物質2種類を朝・夕2回、7日間内服することで行います。
1回目の除菌(一次除菌)で失敗してしまった場合、2回目・3回目と除菌を行うことができますが、保険適応となるのは、二次除菌までです。
(3回目以降の除菌治療は自費での治療となります。)
詳細に関しては、ピロリ菌の記事をご確認ください。
ピロリ菌の治療費用
ピロリ菌の除菌にかかる費用は以下のとおりです。
ピロリ菌の除菌 | 自費 | 保険診療(3割負担) |
---|---|---|
一次除菌 | ー | 約850〜900円 |
二次除菌 | ー | 約850円 |
三次除菌 | 約5,500円 | ー |
※税込み価格になります
※検査にかかる費用は別途かかります
胃がんを予防するために
ピロリ菌除菌が成功して、萎縮性胃炎が少しずつ改善していくことで、胃がんの発がんリスクは下がります。
胃がんを予防するために最も重要なことは、ピロリ菌除菌といえます。
定期的な胃カメラ検査を行う重要性
胃がんの初期では、ほとんど自覚症状がありません。 そのため、みぞおちの違和感や痛みがあり、「気にしすぎかな」と思う方で、検査をしてみると思わぬ形でがんが見つかるケースは少なくありません。
萎縮した粘膜が、完全にもとの粘膜に戻るには、10年以上の年月がかかります。
つまり、残っている萎縮した粘膜から、胃がんが発生しやすい状況は、10年以上続くことになります。
そのため、ピロリ菌の除菌後も、胃がんが生じてないか1年に1回、定期的に胃カメラを行う必要があります。
進行胃がんの内視鏡画像
食事・生活習慣の改善
食事や喫煙は、胃がんの発生に影響するといわれています。
胃がんの予防には、
- 野菜や果物の摂取(ビタミンC、カロテノイド)
- ネギ、ニンニク、玉ねぎ
- 緑茶
- 豆類
などが有用であると報告されています。
また、塩分を摂りすぎないようにふだんの食生活から減塩を意識しましょう。
唐辛子や加工肉、燻製食品なども胃がんのリスクを上昇させることがわかっています。
これらの食品の食べすぎに注意しましょう。
喫煙(タバコ)はなるべく止めるようにしましょう。
尚、コーヒーや飲酒に関しては、胃がんのリスクにはなりません。
萎縮性胃炎に有効な食べ物
有効な食品として、LG21 乳酸菌入りのヨーグルトがあります。
ピロリ菌による炎症を抑える効果が報告されています。
ですが、あくまで炎症を抑制するだけであって、除菌できるわけではないため根本的な治療とはなりません。
一方で、乳幼児期にピロリ菌感染している両親からのキスや、幼少期に田舎で川遊びをしていたことが原因で、ピロリ菌が感染している方は、若い方でもまだ一定数いるのが現状です。
ほぼ無症状であるため、萎縮性胃炎がありながらも放置されている若い世代の方は、多くいることが予想されます。
また、若い方でも鳥肌胃炎がある場合、胃がんを合併する可能性が高くなります。
萎縮性胃炎では無症状であることが多いので、「心配ない」と決めつけずに、ピロリ菌感染が疑わしい方や気になる方は、まず検査を受けてみるようにしましょう。
参考文献:
胃と腸アトラスⅠ 上部消化管 第2版 医学書院
内視鏡診断のプロセスと疾患別内視鏡像-上部消化管 改定第4版 日本メディカルセンター
消化器内視鏡 第28巻 8号 胃疾患アトラス 東京医学社
臨牀 消化器内科 Vol.30 No.7 胃癌の診療
日本ヘリコバクター学会 H.pylori感染の診断と治療のガイドライン 2016改訂版
https://www.jshr.jp/medical/journal/file/guideline2016.pdf
明治 乳酸菌研究最前線 乳酸菌OLL2716株試験結果(ピロリ菌)
https://www.meiji.co.jp/yogurtlibrary/laboratory/report/oll2716/03/