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便秘

便秘とは

便秘とは、便の回数が週3回以下(2・3日に1回)であり、本来排出すべき便を、十分量かつ快適に排出できない状態です。
便秘は、食習慣や睡眠などの生活習慣の乱れや、ストレスが原因で生じます。
便秘は男性より女性に多く、腸の動きは年齢とともに弱くなるため、加齢に伴い増加します。

「便秘気味だな」と感じたことが、皆さん一度はないでしょうか?
実は、日本人の10〜15%は慢性便秘であるといわれており、便秘が生活に支障をきたしたり、つらい経験をした方は少なくないと思います。

便秘でつらいだけではなく、排便時にいきむことで、血圧が急上昇し、脳梗塞、くも膜下出血、心筋梗塞などを引き起こし、命の危険に関わる可能性もあります。
また、「ホルモン異常」や「大腸がん」など、思わぬ病気が隠れているケースがあります。

市販薬の下剤で良くならない場合でも、医療機関でしか処方できない薬が多数あり、便秘の改善が期待できます。
便秘に関して、即効性のある解消方法や、おすすめの食べものなどの細かい情報まで、消化器病専門医・内視鏡専門医・胃腸科専門医である院長が、分かりやすく・詳細に解説していきます。

便秘とは

便秘の原因

排便は1日1回、いきまずに便が出るのが理想的だといわれています。
便秘の原因は、

  • 腸になんらかの病変があるもの(器質性)
  • 腸の動きの異常(機能性)

の2つに分けられます。
自覚症状として、便秘しか認めないもののなかにも、病気が隠れている場合があり、注意が必要です。

原因 具体的な病気
1. 腸になんらかの
病変があるもの
(器質性)
2.腸の動きの異常
(機能性)
  • 精神的ストレス
  • 野菜・果物の摂取不足
  • 骨盤底筋の機能異常
    (骨盤底筋協調運動障害)
  • 運動不足
  • ダイエット
  • 月経(生理)、妊娠
  • 過敏性腸症候群
  • ホルモン・代謝異常:
    甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、糖尿病 など
  • ミネラルバランスの異常:
    高カルシウム血症、低カリウム血症、低マグネシウム血症 など
  • 精神的な疾患:
    神経性食思不振症(神経性やせ症)、拒食症、
    うつ病、心気症 など
  • 自己免疫性疾患:
    強皮症、皮膚筋炎、アミロイドーシス など
  • 常用薬の副作用(薬剤性):
    抗うつ薬、抗精神薬、抗コリン薬、モルヒネ、降圧薬(カルシウム拮抗薬)、抗不整脈薬、利尿薬 など
  • お腹の手術をした方:
    大腸、小腸や直腸を切除する手術、
    帝王切開や婦人科疾患の手術 など

また、慢性的な便秘で医療機関へ受診した場合、約2~3割が過敏性腸症候群と診断されます。

女性で便秘が起きやすい「3つの理由」とは?

女性でよく便秘がみられることが知られていますが、便秘が女性で起きやすい理由が3つあります。
主に

  • 筋力の低下
  • ダイエット
  • 女性ホルモン

が原因となります。

1. 筋⼒の低下

女性は男性に比べ、排便に必要な括約筋(かつやくきん)と腹筋の力が弱いため、腹筋が低下すると便秘になりやすくなリます。
特に女性は骨盤が広いので、腸が下がりやすいという特徴があります。

2. ダイエット

食事量が少なくなることで、腸の運動が低下し、便秘になりやすくなります。

3. ⼥性ホルモン:

黄体ホルモン(プロゲステロン)は、生理前・生理中・妊娠に多く分泌されます。
このホルモンの働きにより、腸の運動が抑制され、水分・塩分がよく吸収されるようになり、便秘になりやすくなります。

便秘の症状

便秘症の三大症状として、以下のものがあります。

  • 排便回数の減少
  • 排便困難感
  • 残便感

その他、腹痛お腹の張りや不快感などがあり、肌荒れにも関係しています。
1週間以上、便が出ないひどい便秘の場合、お腹や背中の痛みが強くなり、冷や汗をかいたり、つらくて寝れないこともあります。
排便時に習慣的にいきむことで、脱肛や直腸脱、いぼ痔切れ痔を生じます。

便秘で危険な症状

以下の症状やエピソードを認める場合、便秘以外に治療が必要な病気が隠れていることがあります。

  • 急な体重減少(半年以内に3kg以上の体重減少)
  • 血便
  • 腹部にしこりを触れる
  • 発熱
  • 関節痛

これらを認める場合、早めに消化器内科を受診しましょう。
こちらの便秘で精査・治療が必要な可能性があるものに該当する項目がないか、ご確認ください。

このような危険な症状・エピソードを認める場合、なるべく早めに消化器内科を受診しましょう。

このような危険な症状・エピソードを認める場合、なるべく早めに消化器内科を受診しましょう。

便秘の合併症

便秘に伴う合併症の一覧を以下にお示しします。

  • 大腸憩室・憩室炎
  • いぼ痔(ぢ)・切れ痔
  • 脳梗塞
  • 脳出血、くも膜下出血
  • 心筋梗塞
  • 大動脈瘤破裂・大動脈瘤解離
  • 静脈血栓症
  • 肺塞栓症
  • パーキンソン病
  • 慢性腎不全
  • うつ病
  • 不安神経症
  • 機能性ディスペプシア
  • 逆流性食道炎

など

便秘で大腸のなかの圧(腸管内圧)が上がることで、大腸憩室が生じます。
大腸憩室に便などがはまり込んで、血流が悪くなることで、憩室炎を引き起こします。
いきむことで血圧が急上昇し、さまざまな合併症を引き起こすといわれています。

特に動脈硬化が進んでいるご高齢の方では、急な血圧上昇によって脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、心筋梗塞や大動脈瘤の破裂・乖離などが起きる可能性があります。
また、静脈血栓症が多くなり、肺塞栓症や脳梗塞を引き起こします。
便秘の方で、パーキンソン病や慢性腎不全の発症が多くなると報告されています。
慢性便秘の患者さんの約60%にうつ病・不安神経症などが認められるといわれています。
また、慢性便秘の方は機能性ディスペプシア逆流性食道炎が合併しやすいといわれています。

便秘に胃痛を伴う場合、これらの病気の合併を考えます。

便秘の検査・診断

問診にて便秘の状態や、便秘の原因となる内服薬や持病がないかどうかを確認します。
また下記の検査を、患者様の状態を考慮して行います。

  • 大腸カメラ検査(大腸内視鏡検査)
  • 腹部レントゲン検査
  • 血液検査
  • 腹部超音波検査(腹部エコー検査)
  • 腹部CT検査検査

など

便秘を引き起こす最も重要な病気は大腸がんであるため、大腸カメラで確認します。
また、クローン病や虚血性腸炎がないかどうかを確認します。

血液検査では、便秘をきたすホルモン・代謝異常やミネラルバランスの異常、自己免疫疾患がないかを評価します。
また、腹部レントゲン検査を行い、腸閉塞(イレウス)の有無を確認します。
必要に応じて、腹部エコー検査、腹部CT検査を行い、便秘の原因を詳しく調べていきます。

当院では大腸カメラを受けていただく際、無痛で苦しくない検査を受けていただけるように、しっかりと鎮静剤を使用して眠っていただいた上で検査を行います。
安心して検査が受けられますので、お気軽にご相談ください。

便秘の治療・解消方法

便秘の治療には薬物療法に加え、日常生活の改善が重要になります。
また、神経性食思不振症(拒食症)やうつ病の症状が全面に出ている場合には、心療内科での治療を優先的に行っていくことで便秘の改善が期待できます。

便秘の解消に最も即効性があるのは、薬物治療になります。医療機関で処方できる内服薬には、市販薬よりも即効性があり、効果が高いものが多数あります。

①薬物治療

原因となる病気がある場合には、その病気に対する治療が優先されます。 
大腸カメラや腹部レントゲン検査で、大腸に病気を認めない場合、薬物治療を行っていきます。
下剤はいずれも即効性がありますが、刺激性下剤や浣腸は、耐性や依存(くせになる)が問題となります。
そのため、刺激性下剤や浣腸を使用する場合は、短期間の投与か頓服で内服してます。
継続的に服用する場合、非刺激性の下剤を内服していくことが

最近新しく開発された下剤として、

  • 上皮機能変容薬(ルビプロストン、リナクリチド)
  • 胆汁酸トランスポーター阻害薬(エロビキシバット)

などがあります。
これらは非刺激性の下剤で、効果があり耐性や依存がなく、副作用が少ないことが特徴です。

主な下剤として、以下のものがあります。

主な下剤の一覧

主な下剤の一覧

そのほか、漢方薬や浣腸などを使用していきます。
患者様の年齢や、便秘の状況や腸の状態、他の症状などをみて、使用する薬を判断します。
また、便秘で使用する漢方薬の一覧を以下にお示しします。

漢方薬の一覧

漢⽅薬 改善させる症状
⼤⻩⽢草湯 便秘
桃核承気湯 イライラを伴う便秘
防⾵通聖散 イライラを伴う便秘
桂枝加芍薬⼤⻩湯 お腹の張り、便秘
⼤建中湯 お腹の張り、腹痛
⿇⼦仁丸 ⾼齢者の便秘
順腸湯 ⾼齢者の便秘
⼤紫胡湯 上腹部痛を伴う便秘

これらの漢方薬を症状に合わせて組み合わせていきます。
内服が困難な場合、ビサコジル坐薬や炭酸水素ナトリウム坐薬などを使用することがあります。
また、肛門のすぐ近くの直腸で便が詰まっている場合には、グリセリン浣腸が有効です。

②日常生活の改善

まずは、こまめに水分摂取を行うようにしましょう。
からだの水分が少なくなると、便が固くなりやすくなります。こまめに水分摂取をするようにしましょう。
また、日常生活でのストレスや生活の乱れ、運動不足が便秘を引き起こします。
そのため、

  • ストレスの軽減や食物繊維を多く食べる
  • 十分な睡眠時間を確保する
  • 適度な運動をする

など、規則正しい生活を行うことが大切です。

食生活の改善

日々の食生活を改善させることも重要になります。
便秘の際には、肉類の摂り過ぎに注意し、食物繊維をしっかり摂取するようにしましょう。
便秘に効く食べ物として、食物繊維が知られています。
食物繊維には

  • 水に溶けにくい「不溶性食物繊維」
  • 水に溶けやすい「水溶性食物繊維」

の2種類があります。

水溶性食物繊維は善玉菌を増やし、不溶性食物繊維は腸の動きを活発にする作用があります。
ただし、不溶性食物繊維を食べすぎてしまうと、ガス溜まりの原因になります。
バランス良く食べることを意識しましょう。

食物繊維の多い野菜・食べ物の一覧は以下のものになります。

食物繊維の多い野菜・食べ物の一覧

不溶性⾷物繊維 ⽔溶性⾷物繊維 不溶性・⽔溶性
いずれも多く含むもの
  • ほうれん草
  • たけのこ
  • エリンギ
  • あずき
  • ⼤⾖、きな粉
  • ココア
  • パイナップル
  • ⼲し柿
など
  • わかめ
  • ひじき
  • らっきょう
  • ⼤⻨
  • おから
  • こんにゃく
  • キャベツ
  • りんご
など
  • ごぼう
  • にんじん
  • じゃがいも
  • キウイ
  • アボカド
  • 寒天
  • あおのり
  • 切り⼲し⼤根
  • なめこ
  • プルーン
  • 納⾖
など

また、オリーブオイルやごま油、チーズ、ナッツ類などで、脂質を適度に摂ることで便秘の解消が期待できます。

便秘に効く飲み物・飲まないほうがいいもの

便秘の際に良い飲み物・悪い飲み物の一覧をいかにお示しします。

便秘にいい飲みもの 飲まないほうがいいもの
  • ⽔(⽩湯)
  • ほうじ茶
  • ⻨茶
  • 炭酸⽔
  • ⽜乳
  • ⻘汁
  • ルイボスティー
  • ローズヒップティー
  • 野菜ジュース
  • フルーツジュース
など
  • カフェイン・タンニンを多く含むもの
  • コーヒー
  • 紅茶
  • 緑茶
  • ワイン
など

カフェインやタンニンを多く含むコーヒー、紅茶、緑茶などは控えましょう。
カフェインの利尿作用により、体が脱水となり、便秘の原因となります。
また、タンニンを多く含むものは、便を硬くする作用があるため、飲み過ぎには注意しましょう。

  • 腸内環境(腸内フローラ)の改善
  • プロバイオティクスの有効性

便秘には腸内細菌が関与しており、腸内環境(腸内フローラ)を改善することで、便通が良くなるといわれています。
具体的には、大腸のなかの善玉菌を増やして、悪玉菌を減らすことで、便通の改善が期待できます。
オリゴ糖には善玉菌の増殖を促す効果があります。
また、おならのにおいが臭くて気になる場合、悪玉菌が増えて、善玉菌が減少することが原因と考えられます。
「プロバイオティクス」とは、
腸内フローラのバランスを改善することによって、健康に好影響を与える生きた微生物と定義されており、乳酸菌やビフィズス菌、酪酸菌のことを指します。
ヨーグルト食品、納豆・キムチなどの発酵食品には善玉菌である乳酸菌(ビフィズス菌)や酪酸菌が多く含まれています。
これらのプロバイオティクスは、

  • 排便回数の改善
  • 腹痛・お腹の張りなどの改善

に有効であり、便秘の解消に即効性があるとされています。
腸内フローラの改善に良い野菜、果物、食べものの一覧を以下にお示しします。

腸内フローラの改善に有効な食べものの一覧

ビフィズス菌を多く含む⾷品 発酵⾷品 オリゴ糖を多く含む⾷品
  • ヨーグルト
  • 乳酸菌飲料
  • 納⾖
  • バナナ
  • ごぼう
  • ⽟ねぎ
  • にんにく
  • アスパラガス
  • ライ⻨
など
  • 味噌
  • 醤油
  • 塩こうじ
  • 酒粕
  • かつお節
  • 納⾖
  • キムチ
など
  • ⽟ねぎ
  • サトウキビ
  • キャベツ
  • ごぼう
  • アスパラガス
  • じゃがいも
  • にんにく
  • とうもろこし
  • ⼤⾖
  • ハチミツ
など

運動、ストレッチについて

運動やストレッチをすることで、大腸の動きが活発になり、便が出やすくなります。
特に有酸素運動や体幹のストレッチを行うことが効果的です。
具体的には、ウォーキングや自転車、ジョギングなどの有酸素運動を行うようにしましょう。
また、運動が毎日できない場合でも、寝る前にストレッチを数分〜10分程度行うことで、便秘の解消に効果があるとされています。
日々の生活のなかで、無理なく続けられる習慣を作りましょう。

「たかが便秘」と軽視することで、思わぬ病気が隠れていたり、くも膜下出血や脳梗塞といった命の危険に関わる病気を起こしてしまうリスクがあります。
当クリニックでは消化器病専門医として、便秘の治療に対して、専門的に対応しております。
市販薬で改善しない便秘や、慢性的な便秘で悩まれている方など、まずはお気軽にご相談ください。

参考文献:

最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針 中山書店
日本消化管学会 便通異常症診療ガイドライン 2023ー慢性便秘症 南江堂
日本消化器病学会 慢性便秘症診療ガイドライン 2017
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/2/109_254/_pdf/-char/ja
日本大腸肛門病学会 便通異常症診療ガイドライン 慢性便秘症 草稿
https://jpn-ga.jp/wp-content/uploads/2023/03/jga-benpihen-draft.pdf
日本臨床内科医会 わかりやすい病気のはなしシリーズ49 便秘
https://www.japha.jp/doc/byoki/byoki049.pdf
日本大腸肛門病学会 排便障害 たかが便秘に要注意!(たかが便秘されど便秘)
https://www.coloproctology.gr.jp/modules/citizen/index.php?content_id=19
健栄製薬 便秘に効くといわれている食べ物を紹介!食生活を改善しよう
https://www.kenei-pharm.com/ebenpi/column/column_50/