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憩室炎

大腸憩室とは

憩室炎とは、大腸憩室に便などが詰まって血流が悪くなり、憩室に炎症を起こす病気です。
憩室炎により、右下腹部痛や左下腹部痛、発熱、下痢、おならが頻回になるなどの症状を生じます。
多くの場合、抗生剤を内服し、安静にすることで数日〜7日程度で、治ります。
しかし、憩室炎がひどくなることで、膿み(うみ)ができたり、腸に穴があいて腹膜炎を起こすことがあるので、注意が必要です。
60歳未満では上行結腸(おなかの右側)での憩室炎が多く、60歳以上でS状結腸・下行結腸(おなかの左側)の憩室炎が多い傾向があります。
憩室炎を起こした方の約10〜50%で、憩室炎が再発するといわれています。
また、憩室炎を発症した後に、大腸癌(がん)の発見率が高いことが知られているため、憩室炎になった方は、再発予防や定期的な大腸カメラを行っていくことが重要になります。
憩室炎に関して、原因や食事などの細かい情報まで、消化器病専門医・内視鏡専門医・胃腸科専門医である院長が、分かりやすく・詳細に解説していきます。

1. 憩室炎の原因

憩室炎の原因として、以下のものがあります。

  • タバコ(喫煙)
  • 肥満

喫煙と肥満は、憩室炎が起こった際に、腸に穴があく(穿孔)リスクを高めると報告されています。 また、肥満は憩室炎だけでなく、憩室出血のリスク因子になります。

  • 加齢(40歳以降の方)
  • 便秘
  • 野菜が少ない食生活
  • ストレス

大腸憩室が生じる原因としては、加齢(40歳以降の方)、便秘、野菜の少ない食事が挙げられます。
臭いおならが出る場合には、便秘のサインである可能性があります。
ストレスは、憩室炎の直接的な原因ではないですが、慢性的なストレスにより便秘気味となるため、大腸憩室ができやすくなります。

憩室炎の症状

 

大腸憩室は、大腸の右側(上行結腸)と、大腸の左側(S状結腸・下行結腸)にできやすく、そこで炎症が起こることで憩室炎が生じます。
憩室炎を起こすことで、以下の症状が引き起こされます。

  • 腹痛(右下腹部痛、左下腹部痛)
  • 発熱
  • 吐き気・嘔吐
  • 下痢
  • おなら  など

上行結腸の憩室炎を起こした場合、 腹痛(右下腹部痛)と発熱を認めるため、急性虫垂炎(いわゆる盲腸)と似たような症状になります。
炎症が強くなり、腸が動かなくなることで、吐き気・嘔吐が生じます。
また、炎症がある間は、下痢を認めることが多いです。
炎症があることで、腸の動きが悪くなり、腸内細菌のバランスが乱れることから、おならが頻回に出るようになります。

憩室炎の合併症

憩室炎が重症化することで以下の合併症を引き起こす可能性があります。

  • 膿瘍(のうよう)
  • 狭窄(きょうさく)
  • 穿孔(せんこう)
  • 腹膜炎
  • 敗血症(はいけつしょう)
  • 食道裂孔ヘルニア
  • 胆嚢結石  など

膿瘍とは、膿みの貯まりが作られることです。
狭窄は、腸のなかが狭くなることです。
穿孔とは、腸に穴があくことです。
敗血症とは、憩室炎を引き起こした細菌が、血液中に入ることで、細菌が全身に波及した状態のことです。
腹膜炎や敗血症を起こすことで、命の危険に関わる状態になる場合があります。
膿瘍、狭窄、穿孔、腹膜炎などの合併症は、S状結腸を中心とした大腸の左側の憩室炎で起きやすいという特徴があります。
また、大腸憩室のある方は、食道裂孔ヘルニアや胆嚢結石を合併していることが多いです。
胆嚢結石が憩室にはまり込んで、憩室炎を起こすケースもあります。

憩室炎の検査・診断

大腸憩室を診断するためには、以下の検査を行います。

  • 血液検査
  • 腹部エコー検査
  • 腹部CT検査
  • 大腸内視鏡検査(大腸カメラ)

血液検査で、炎症の度合いを評価します。
腸管の炎症の評価や治療効果の判定のために、腹部エコー・腹部CT検査を行います。
また、急性虫垂炎かどうか判断するためにも有用です。
憩室炎を発症した後に、大腸癌(がん)の発見率が高いといわれているため、憩室炎が落ち着いた後には大腸カメラを行うことが推奨されています。

憩室炎の内視鏡画像

憩室の内部に炎症があり、白苔が付着しています。
憩室のまわりの粘膜は赤く、ややむくんでいるのが確認できます。

憩室炎の治療

憩室炎の治療に関しては、①内科的な治療、②外科的手術の2種類があります。

内科的な治療

憩室炎に関しては、市販薬の治療薬はありません。
医療機関で処方される抗生物質を内服する必要があります。
自然治癒する場合もありますが、炎症がひどくなることで入院が必要になったり、手術を行わなければいけなくなることがあります。
軽症(微熱程度で、腹痛が軽度)であれば、抗生剤や整腸剤を内服して、自宅療養とします。
抗生剤を内服することで、一般的には2、3日で痛みが改善します。
炎症が強い場合には入院の上、絶食・点滴管理を検討します。
尚、妊娠中で抗生剤を使用を検討する場合には、妊娠週数によって胎児に影響を及ぼす可能性があるため、産婦人科医に相談して使用するかどうかを判断します。

外科的手術

憩室炎で腸のなかが狭くなったり(狭窄)、膿み(膿瘍)・穿孔(腸に穴があくこと)・腹膜炎を認めて、全身状態が悪化している場合などには外科的手術を検討する場合があります。

憩室炎後の食事

大腸のなかの圧(腸管内圧)が高くなり、大腸の動きが活発になると憩室炎は悪化してしまいます。
そのため、憩室炎が治った後の1週間程度は、食事を管理することが大切です。

具体的には、
  • 野菜などの食物繊維の摂り過ぎない
  • チョコレートやケーキなどの脂っこいものを摂らない

ように心がけましょう。
憩室炎の際に、おすすめの食べ物、気をつけたほうがよい食べ物の一覧を以下にお示しします。

消化の良いもの 気をつける食べ物
  • ご飯、おかゆ
  • 素うどん
  • 食パン
  • スープ
  • 乳製品(牛乳、豆腐、チーズ)
  • 加熱した卵
  • 火の通った野菜
  • 脂身の少ない肉類
  • 加熱した白身魚、はんぺん
  • 煮た大根やニンジン
  • りんご
  • バナナ
  • ヨーグルト
  • プリン
  • ゼリー など
  • 脂肪の多い食事
    炒飯、ラーメン、とんかつ、焼き肉、天ぷら、カレーライス など
  • 胡椒、唐辛子を多く使った料理
    唐揚げ、手羽先、チゲ鍋、四川料理 など
  • スイーツ
    チョコレート、ケーキ、洋菓子、ドーナツ、アイスクリーム など
  • 刺激のある飲み物
    コーヒ-、紅茶、炭酸水、炭酸飲料、アルコール など
  • 消化しにくいもの
    たこ、イカ、貝類、くらげ、ごぼう、たけのこ、れんこん、山菜、きのこ類、こんにゃく類、海藻、パイナップル、梨(なし)、ぶどう 豆類、サツマイモ  など

憩室炎の予防・再発予防

  1. 大腸憩室がある方での憩室炎の予防
  2. 憩室炎を起こした方での再発予防

に対して、現時点でエビデンスのある有効な予防策はありません。
一方で、便通を良くすることで、かたい便が憩室にはまり込んで憩室炎を防ぐという意味では、以下の対策が重要になります。

  • 便通のコントロール
  • 野菜などの食物繊維を摂る
  • 適度な運動を行う
  • ストレスの解消

運動は、憩室を予防するだけでなく、憩室出血・憩室炎の原因となる肥満を予防する意味でも大切です。
これらの対策をおこなって、毎日1回、便が出るように規則正しい生活を心がけましょう。
日常生活を改善しても便通が良くならない場合は、便を出しやすくする内服薬(下剤)を使用して、便通をコントロールしましょう。

食生活の改善

一般的に便秘に効く食べ物として、食物繊維が知られています。
食物繊維には

  • 水に溶けにくい「不溶性食物繊維
  • 水に溶けやすい「水溶性食物繊維

の2種類があり、この両方をバランス良く食べることが大切です。
水溶性食物繊維は善玉菌を増やし、不溶性食物繊維は腸の動きを活発にする作用があります。
食物繊維の多い野菜・食べ物の一覧を以下にお示しします。

不溶性食物繊維 水溶性食物繊維 不溶性・水溶性いずれも多く含むもの
  • ほうれん草
  • たけのこ
  • エリンギ
  • あずき
  • 大豆、きな粉
  • ココア
  • パイナップル
  • 干し柿
     など
  • わかめ
  • ひじき
  • らっきょう
  • 大麦
  • おから
  • こんにゃく
  • キャベツ
  • りんご

  •  など
  • ごぼう
  • にんじん
  • じゃがいも
  • キウイ
  • アボカド
  • 寒天
  • あおのり
  • 切り干し大根
  • なめこ
  • プルーン
  • 納豆
     など

また、オリーブオイルやごま油、チーズ、ナッツ類などで脂質を適度に摂ることで、便秘の解消が期待できます。

便秘に効く飲み物・飲まないほうがいいもの

便秘の際に良い飲み物・悪い飲み物の一覧をいかにお示しします。

便秘にいい飲みもの 飲まないほうがいいもの
  • 水(白湯)
  • ほうじ茶
  • 麦茶
  • 炭酸水
  • 牛乳
  • 青汁
  • ルイボスティー
  • ローズヒップティー
  • 野菜ジュース
  • フルーツジュース など
カフェイン・タンニンを 多く含むもの
  • コーヒー
  • 紅茶
  • 緑茶
  • ワイン  など

カフェインやタンニンを多く含むコーヒー、紅茶、緑茶などは控えましょう。カフェインの利尿作用により、体が脱水となり、便秘の原因になります。
また、タンニンを多く含むものは、便を硬くする作用があるため、飲み過ぎには注意しましょう。
お茶を飲みたい場合には、ほうじ茶や麦茶などのノンカフェインのお茶を飲むようにしましょう。

運動、ストレッチについて

便秘に対しては有酸素運動が有効です。
体幹のストレッチを行うことも効果があります。
日々の生活のなかで無理なく続けられるウォーキングや自転車、ジョギングなどを行うことが効果的です。
また、運動が毎日できない場合でも、寝る前にストレッチを日々続けることで便秘の解消に効果があるとされています。

憩室炎は軽症のものであっても、放置することで重症化するリスクがあります。
また、憩室炎は繰り返し起きやすいという特徴があり、約10〜50%で、憩室炎が再発するという報告があります。

  1. 発熱や腹痛がある場合
  2. 以前の憩室炎と似たような症状がある場合

は、無理をせずになるべく早く消化器内科へ受診するようにしましょう。
また、憩室炎を発症した後に、大腸がんの発見率が高いとの報告もあるため、憩室炎の後には大腸カメラを行うことが重要です。
憩室炎が治った方は、一度は大腸カメラを受けるようにしましょう。
当院では、全例に鎮静剤を使用し、しっかりと眠った状態を確認してから内視鏡検査を行っており、痛みのない・苦しくない内視鏡検査を追求しています。
憩室炎や大腸カメラに関して、気になることがあればお気軽に当クリニックへご相談ください。

参考文献:

胃と腸アトラスⅡ 下部消化管 第2版 医学書院
内視鏡診断のプロセスと疾患別内視鏡像-下部消化管 改訂第4版 日本メディカルセンター

最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針 中山書店
消化器内視鏡 第26巻 12号 大腸疾患アトラス 東京医学社

日本消化管学会 大腸憩室症(憩室出血・憩室炎) ガイドライン
https://minds.jcqhc.or.jp/docs/gl_pdf/G0001033/4/diverticulosis_of_colon.pdf
健栄製薬 便秘に効くといわれている食べ物を紹介!食生活を改善しよう
https://www.kenei-pharm.com/ebenpi/column/column_50/