胸焼けとは
胸焼けとは、みぞおちから胸部にかけての灼熱感(焼ける感じ)を伴う不快感のことです。
胸焼けは、胃酸や胆汁、膵液などが⾷道へ逆流することによって引き起こされます。
胸やけの多くは、⼀時的なもので⾃然に改善しますが、なかには、胃潰瘍、⼼臓の病気、精神的な疾患などが隠れていることがあります。
⾷べ過ぎた際に、⼀度は胸焼けを経験したことがあるのではないでしょうか?
胸焼けは、ヒリヒリ・ジリジリと焼けるような感じ、胸のしみる感じ、胃酸が上がってくるような感じと表現されます。
実際には、胸焼けの症状の感じ⽅には個⼈差が⼤きく、「むかむかする」、「もやもやする」、「胃が重い」、「胃の不快な感じがある」など、さまざまな表現となるのが特徴です。
そのため、胸焼けを「胃もたれ」や「むかつき」などと訴えられる場合もあります。
症状が続いてお困りの場合、まずは消化器内科への受診を検討しましょう。
胸焼けに関して、原因・治し⽅・対処法などの細かい情報まで、消化器病専⾨医・内視鏡専⾨医・胃腸科専⾨医である院⻑が、分かりやすく・詳細に解説していきます。
胸焼けの症状
以下の症状を認める場合、胸焼けの可能性が⾼いです。
- 胸のあたりが焼けるような感じがする
- 胸やのどがつかえる
- 胸がしみる感じがする
- ⾷後に酸っぱいものがこみ上げる感じがある
- 胃が重い
- みぞおちのあたりが不快な感じがする
- ムカムカする
こうした症状が⾷後にみられる場合、胸焼けの可能性が⾼いです。
胸焼けに伴う症状
胸焼けに伴う症状の有無は、診断していくうえで⾮常に重要になります。
胸焼けに伴う症状の⼀覧
伴う症状 | 考えられる病気 |
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吐き気 |
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げっぷ |
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お腹が張る(腹部膨満) |
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呑酸感(どんさんかん) |
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体重減少 |
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飲み込みづらい(嚥下障害) |
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⿊⾊便(下⾎) |
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冷や汗 |
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深呼吸すると痛みが出る |
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発熱 |
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胸焼けで緊急性が高い状態とは?
胸焼けに伴い、以下のチェックポイントに該当する症状がある場合、緊急を要する状態である可能性があります。
このような危険な症状・エピソードを認める場合、なるべく早めに消化器内科を受診しましょう。
胸焼けの原因となる病気
胸焼けの原因となる病気は、
- 消化器の病気
- 心臓・肺の病気
- 精神的な病気
の3つに大別されます。
以下に胸焼けを生じる病気の一覧をお示しします。
1. 消化器の病気
- 胃食道逆流症(GERD)
- 逆流性食道炎
- 食道がん
- 食道アカラシア
- 胃がん
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
- 機能性ディスペプシア など
2. 心臓・肺の病気
- 狭心症、心筋梗塞
- 急性心膜炎
- 急性心筋炎
- 肺炎
- 胸膜炎
- 縦隔炎 など
3. 精神的な病気
- 不安神経症
- 自律神経失調症 など
また、ストレスが溜まることで胃酸の量が増えて、胸焼けを引き起こすことがあります。
1つずつ簡単に解説します。
1. 消化器の病気
胃食道逆流症(GERD)
逆流性食道炎
逆流性食道炎とは、胃のなかの胃液や胆汁が逆流することで、胸焼けやのどのつかえ感などを認める病気です。
日本人の15〜20%が逆流性食道炎であるといわれています。
ピロリ菌感染の低下、脂っこく高カロリーな食事、高齢化、ストレスに伴い、逆流性食道炎は増加傾向にあり、中高生や20歳代での発症も多く認めます。
逆流性食道炎を放置して、胃酸の逆流が長く続くと、食道がん(バレット腺がん)のリスクが高くなります。
食道がん
食道がんは、予後が悪いがんの1つです。
60〜70歳代に多く、男女比は約5:1と男性に多いという特徴があります。
胸焼けのほかに、のどの痛み・違和感・つかえ感、胃痛、吐血、体重減少などをきたします。
食道のまわりには、気管支・肺・心臓・大動脈があります。がんが進行することでこれらの臓器に広がっていき、さまざまな症状を引き起こします。
食道アカラシア
食道アカラシアは、食道の動きが悪くなり、食べ物や飲み物がうまく飲み込めなくなる病気です。
食道の神経が機能しなくなることによって、胸焼け、飲み込みにくさ、胸の痛みなどの症状が生じます。
食道アカラシアの診断には、胃カメラ検査が有用です。
また、食道アカラシアの約5%の方は、食道がんを合併するため、年に1回の定期的な胃カメラが必要となります。
胃がん
胃がんは、40代後半から発症しやすく、60歳代が発症のピークとなります。
がんの死亡数では、胃がんは男女ともに第3位と、依然として高い状況が続いています。
その理由は、胃がんの初期では自覚症状がほとんど無症状で、がんが進行することで、胸焼け、貧血、体重減少、みぞおちあたりの痛み、黒い便などを生じるためです。
原因として、ピロリ菌感染、塩分の多い食事、タバコ、アスベスト、ゴム製品の製造業の方などがあります。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍
胃潰瘍・十二指腸潰瘍とは、胃や十二指腸にできる深い傷のことです。
痛み止めで使用される消炎鎮痛剤(NSAIDs)とピロリ菌感染が主な原因です。
過労・睡眠不足や、イライラ・緊張・不安などのストレスが原因となることもあります。
アルコール度数の高いお酒を飲むのも原因となります。
胸焼けのほか、胃痛、胃もたれ、貧血、吐血・下血(黒色便)などを生じます。
胃潰瘍は食後の痛みを伴うことが多く、十二指腸では夜間に痛むことが多いのが特徴です。
十二指腸潰瘍の場合、食べることで痛みが治ったり、軽減されることがあります。
機能性ディスペプシア
機能性ディスペプシアとは、胃の痛みや胃もたれなどの症状があるにもかかわらず、検査で異常がみつからない病気です。
健診を受診する方の約15%の方にみられる病気で、慢性的な症状となることが特徴です。
緊張やストレス、気分の落ち込み、自律神経の乱れ、うつ状態などが発症のきっかけとなります。
胸焼けのほか、胃痛、食後のもたれ感・灼熱感、げっぷ、吐き気、めまいなどが生じます。
市販薬の胃薬や痛み止めで改善しないことが多く、治ったと思っても症状が続き、日常生活に支障をきたすことがあります。
2. 心臓・肺の病気
狭心症、心筋梗塞
狭心症とは、一時的な心筋の虚血により、交通や胸部の不快感などを生じる病気です。
心筋梗塞とは、心臓を栄養する冠動脈の閉塞により、心筋が壊死する病気です。
狭心症では数分〜15分程度、心筋梗塞では30分以上の胸痛・みぞおちのあたりの痛みが生じます。
いずれの病気でも、左肩や首へ放散痛を生じることがあります。
また、呼吸困難、吐き気・嘔吐、冷や汗などがみられます。
急性心膜炎
急性心膜炎とは、心臓を覆っている心膜に炎症が起きる病気です。
若い女性での心膜炎は、全身性エリテマトーデス(SLE)を考えます。
発熱を伴い、深呼吸や仰向けで前胸部の痛みが増強するのが特徴です。
診断には心電図、心エコー検査などが有効です。
炎症がひどくなることで、心タンポナーゼや心筋炎を合併します。
急性心筋炎
急性心筋炎とは、ウイルス・細菌などの感染により心筋に炎症を起こす病気です。
かぜ症状(喉の痛み、咳)や、消化器症状(胸焼け、胃のむかつき、腹痛、下痢)を初期症状として認めることが多いです。
血液検査、心電図、心エコーを行うことで診断できます。
まれに劇症化したり、不整脈により突然死することもあるので注意が必要です。
肺炎
肺炎とは、肺に細菌、ウイルス、真菌(カビ)などが感染することで、炎症を起こす病気です。
胸の痛みや違和感のほか、発熱、咳、痰、呼吸困難(息苦しい)などを認めます。
胸膜炎
胸膜炎とは、心臓や肺、気管支を覆っている胸膜に炎症が起きる病気です。
原因は、細菌感染、結核感染、がん、自己免疫疾患などがあります。
胸の痛み・不快感に加えて、発熱、咳、呼吸困難(息苦しい)などが認められます。
胸の痛みは、深呼吸で増強するのが特徴です。
縦隔炎
縦隔炎とは、肺・胸椎・胸骨で囲まれたスペースである縦隔に炎症が生じる病気です。
炎症は急速に広がって重症化しやすいため、迅速な診断と治療が必要になります。
胸の痛み・不快感に加え、発熱、呼吸困難、飲み込みづらいなどの症状がみられます。
縦隔炎が疑われた場合、早急に救急のある医療機関へご紹介させていただきます。
3. 精神的な病気
不安神経症
自律神経失調症
胃や腸、心臓、肺などの内臓に異常がなくても、上記のような病気によって胸焼けを起こします。
日常生活に支障をきたすケースも数多くあります。
胸焼けの検査・診断
胸焼けの原因を診断するために、まずは問診を行います。
問診で得られた情報をもとに、以下の検査を患者様の状態に合わせて行います。
- 血液検査
- 胃内視鏡検査(胃カメラ)
- 胸部レントゲン検査
- 心電図検査
- 超音波検査(エコー)
- CT検査
- MRI検査
血液検査で、炎症や貧血の度合いなどを評価します。
胸焼けを起こす最も頻度の高い病気は、逆流性食道炎であるため、まずは胃カメラ検査で評価していきます。
胃カメラで、胃潰瘍や機能性ディスペプシア、がんなどがないか判断できます。
問診から、肺や心臓の病気が疑われる場合、胸部レントゲン、心電図などを行います。
食道がん、胃がん、肺炎、胸膜炎、心筋炎などが疑われる場合、胸部CT・MRIを検討します。
実際の胃カメラ動画
実際に口から胃カメラを入れてどのように観察しているかを見ていきましょう。
当クリニックで行っている観察方法をご説明致します。
胃カメラは、胸焼けの原因を診断するための検査として、最も有用です。
胸焼けの治療
胸焼けの治療としては、食道や胃など消化管に原因がある場合は、以下の内服薬を処方します。
- 胃薬(酸分泌抑制薬)
- 胃の動きを良くする薬
- 漢方薬
- 抗不安薬
まずは胃薬(酸分泌抑制薬)の内服を行い、日常生活の改善を行っていきます。
胃薬に加えて、胃食道逆流症(GERD)、逆流性食道炎、機能性ディスペプシアの場合、胃の動きを良くする薬、漢方薬などを内服します。
胃薬・胃の動きを良くする薬は、「即効性のある治し方」に該当します。
また、機能性ディスペプシアや不安神経症の場合、抗不安薬が有効な場合もあります。
市販の胃薬で症状の改善がみられない場合は、消化器内科へ受診しましょう。
治療薬の一覧
漢方薬の一覧
漢⽅薬 | 改善させる症状 |
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六君⼦湯 | 食欲不振、吐き気・嘔吐 |
半夏厚朴湯 | 食道のつまり感 |
半夏瀉心湯 | げっぷ、胸焼け、消化不良 |
大建中湯 | お腹の張り(腹部膨満感) |
柴苓湯 | 吐き気、食欲不振 |
⼗全⼤補湯 | ⾷欲不振、だるさ |
これらの漢方薬を、患者様の症状に合わせて処方してきます。
胸焼けの対処法
胸焼けを解消するために、食事や日常生活の改善を心がけましょう。
1. 胸焼けに良い食べ物・悪い食べ物の一覧
○消化の良いもの | ✕気をつける食べ物 |
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食生活の改善が治療効果に大きく影響しますので、なるべく気をつけましょう。
2. 日常生活で気をつけることの一覧
胸焼けを予防するために日常生活で避けること、やってはいけないこと、食事の際に気をつけることとしては、以下のものがあります。
日常生活で避けること (やってはいけいないこと) |
食事の際に 気をつけること |
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寝るときに気をつけること
寝る前に気をつけることとしては、以下のことが挙げられます。
- 寝る3時間前までに飲食を済ませる
- 寝る前に、コップ一杯のぬるめの水・白湯を飲む
- 寝る際に枕を少し高くする
- 寝る時の姿勢は、右を下にして寝る
朝起きた時に、口のなかが酸っぱい・苦い場合、寝る際に枕を少し高くしましょう。上半身を少し上げることで予防できることがあります。
左を下にして寝ることで、胃酸が逆流しやすくなり、夜に寝れなくなるケースもあります。
症状を少なくする楽な姿勢として、右を下にして寝ることが有効です。
まとめ
胸焼けは、逆流性食道炎で最も典型的で頻度の高い症状でありますが、心臓や肺の病気が隠れているケースもあります。
市販の胃薬で治らない場合や、胸焼けが続いている場合、思わぬ病気が隠れている可能性があります。
また、冷や汗、発熱や息苦しさを伴う場合、緊急性が高い可能性があります。
胸焼けで何かお困りの場合、お気軽に当院へご相談ください。
参考文献:
最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針 中山書店
本消化器病学会 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン 2021(改訂第3版)
https://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/pdf/gerd2021r_.pdf
日本消化器内視鏡学会 胸やけ(逆流性食道炎)の原因は内視鏡でわかりますか?
https://www.jges.net/esophagus-stomach_09
日本気管食道科学会 気管食道科に関する疾患・症状 胸やけ(胃食道逆流症)
https://www.kishoku.gr.jp/disease/heartburn/
日本消化器病学会ガイドライン 胃食道逆流症(GERD)ガイドQ&A
https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/gerd.html
日本小児外科学会 胃食道逆流症
http://www.jsps.or.jp/archives/sick_type/i-shokudou-gyakuryushou