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感染性胃腸炎

感染性胃腸炎とは

感染性胃腸炎とは、細菌・ウイルス・寄生虫・原虫の感染により、胃や腸に炎症を生じる病気です。
原因には、食あたり、風邪(かぜ)のウイルス、食中毒、性感染症などがあります。
腹痛、下痢、粘液便、血便、微熱、発熱などを生じます。
通常、症状に対する治療(対症療法)や点滴を行うことで、数日間で改善します。
治りの悪い腹痛や下痢が続いており、大腸カメラを行ったところ、性感染症による胃腸炎と診断されるケースが近年、多く見受けられます。
また、食中毒、海外での食あたり(旅行者下痢症)、性感染症などが原因の場合、市販薬では改善せず、抗生物質の投与を行わなければいけないケースがあります。
また、感染力が強いウイルス・細菌が原因で胃腸炎を起こしている場合、学校の出席停止や仕事を休まなければいけない場合もあります。
感染性胃腸炎に関して、早く治す方法や、学校・仕事の復帰などの細かい情報まで、消化器病専門医・内視鏡専門医・胃腸科専門医である院長が、分かりやすく・詳細に解説していきます。

感染性胃腸炎の原因

感染性胃腸炎はさまざまな病原菌が原因となり、発症します。
主に①細菌、②ウイルス、③寄生虫・原虫、④性感染症の4つの種類に分けられます。

原因 病原菌
細菌 サルモネラ、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌、腸管出血性大腸菌、赤痢菌、コレラ菌、エルシニア菌、ウェルシュ菌、腸チフス、パラチフス  など
ウイルス ノロウイルス、ロタウイルス、エンテロウイルス、アデノウイルス、サイトメガロウイルス、E型肝炎ウイルス(HEV)  など
寄生虫・原虫 アニサキス、有鉤条虫、赤痢アメーバ、ランブル鞭毛虫  など
性感染症 梅毒トレポネーマ、クラミジア、ヒトパピローマウイルス(HPV)、赤痢アメーバ  など

これらのなかには、旅行者下痢症や食中毒の原因になる病原菌も含まれています。
それぞれの病原菌ごとに潜伏期間(感染してから症状が出るまでの期間)や症状が異なります。
また、なかなか診断がつかない下痢や腹痛があった場合、性感染症に伴う感染性胃腸炎である可能性が考えられます。
性感染症の病原菌の場合、一般的に胃腸炎で使用する抗生剤が効かないので、しっかりと診断することが大切です。

食中毒について

日本の食中毒の3大原因は、①ノロウイルス、②カンピロバクター、③アニサキスとされています。
胃アニサキス症では、アニサキスを胃カメラで摘出しない限り、強い腹痛が数日間持続します。
ロタウイルスでは白い下痢を認めることが特徴です。
カンピロバクター、サルモネラ、エルシニアでは、血便を認めます。
主な食中毒の病原菌・潜伏時間(食べてから症状が出始めるまでの時間)・原因食品の一覧は以下になります。

ウイルス・細菌 潜伏期間 原因となる食品
黄色ブドウ球菌 30分 おにぎり、肉・卵の加工品 など
アニサキス 3〜12時間 サバ、アジ、イカ、タラ、サケ、サンマ、カツオ、イワシなどの刺し身・寿司
腸炎ビブリオ 7,8時間 魚介類の生食 など
サルモネラ 6時間 肉、卵(卵かけご飯)、生の豚肉、マヨネーズ など
ウェルシュ菌 6時間 肉類、魚介類、野菜、煮物、カレー、シチュー、エビチリ、冷蔵庫のもの など
ノロウイルス 24時間 生牡蠣(かき) など
カンピロバクター 2日〜10日 生の鶏肉・豚肉、生乳 など(BBQで起きやすい)
エルシニア 2〜5日 生の豚肉、冷蔵庫で長期保存された食品
ボツリヌス 5時間〜3日 からしれんこん、瓶詰めの輸入オリーブ、乳児期のハチミツ
腸管出血性大腸菌O-157 1〜9日 生の牛肉、野菜、ヨーグルト など

食あたりで特に多くみられるのが、作り置きしておいたカレー・シチューなどからの感染です。
調理した後、予熱があるからといって冷蔵庫にしまわずに放置しておくことで、ウェルシュ菌が繁殖し、食あたりを起こすケースが多いです。
また、冷蔵庫で2,3 日保存していた味噌汁などでも感染します。
酸っぱい臭いや味がした場合には、ウェルシュ菌が疑わしいです。
その他、冷蔵庫に残った食事を保存していても、エルシニア、リステリア、ボツリヌスといった細菌が繁殖して、食あたりを起こします。
鶏肉や豚肉は十分加熱しなければいけません。
鶏肉が生焼けの場合、カンピロバクターに感染します。
豚肉が生焼けの場合、カンピロバクター、サルモネラ、E型肝炎ウイルス(HEV)、寄生虫(有効条虫)などに感染する可能性があります。
ノロウイルスや腸管出血性大腸菌O-157は感染力が強いため、ほかの人にうつる可能性が高いです。
ノロウイルスの場合、吐物や吐物と一緒に出る水蒸気(霧)でも、感染します。
その他の病原菌でも、感染している方と直接接触することで、他人に感染させる可能性はあります。
38℃以上の発熱が認められる場合、抗生物質や点滴が必要となる場合がありますので、医療機関へ受診しましょう。

旅行者下痢症について

旅行者下痢症とは、海外へ渡航した際に、渡航先での食べもの・飲みものがきっかけとなって、胃腸炎を起こすことです。
原因菌としては、毒素原性大腸菌が最多です。
その他、カンピロバクター、サルモネラ、コレラ菌、細菌性赤痢などがあります。
症状が強い場合、抗生剤の投与を検討します。

主な旅行者下痢症の原因菌・特徴

細菌名 渡航エリア 潜伏期間 症状
毒素原性大腸菌 アフリカ、中東、南アジア 1〜3日 腹痛、1日3回以上の下痢
カンピロバクター アジア・欧米、発展途上国に広く分布 2〜5日 発熱、腹痛、下痢、血便
サルモネラ アジア・欧米、発展途上国に広く分布 6〜72時間 発熱、腹痛、下痢
コレラ菌 東南アジア、インド 1〜3日 腹痛、嘔吐、真っ白な下痢(米のとぎ汁様)
細菌性赤痢 東南アジア、インド 1〜5日 発熱、腹痛、血便、下痢

これらの地域に旅行へ行ったあとから、発熱や血便などを認める場合、医療機関へ受診しましょう。

感染性胃腸炎の症状

 

感染性胃腸炎となることで、以下の症状が起こる可能性があります。

  • 腹痛
  • 発熱
  • 食欲不振
  • 吐き気・嘔吐
  • 下痢
  • 血便
  • 頭痛

腹痛に関しては、感染する病原菌によって痛む場所が異なります。
また、便意はあるが、便が出ない状態が続くことがあります(しぶり腹)。
一般的に細菌が原因である場合、発熱を伴うことが多く、38℃以上の熱を生じることがあります。
発熱が持続することで、頭痛が生じることもあります。
炎症が続くことで、胃や腸の動きが悪くなるため、食欲不振吐き気・嘔吐を生じます。
コレラ菌やロタウイルスでは、白色の下痢をきたすことが特徴です。
血便をきたす病原菌の一覧を以下にお示しします。

血便を生じる病原菌
細菌 ・サルモネラ
・カンピロバクター
・腸管出血性大腸菌(O-157)
・赤痢菌 
・腸チフス
・パラチフス など
ウイルス ・サイトメガロウイルス など
寄生虫・原虫 ・赤痢アメーバ など

感染性胃腸炎は、ストレスが原因になることはありません。
ストレスが原因で、腹痛や下痢が続く場合、過敏性腸症候群の可能性が考えられます。

治療が必要な感染性胃腸炎のチェックポイント

こちらの治療が必要な感染性胃腸炎のチェックポイントに該当する項目がないか、ご確認ください。

このような症状・エピソードを認める場合、なるべく早めに消化器内科を受診しましょう。

感染性胃腸炎の検査・診断

まずは問診を行い、直近で食べたもの、症状の経過、発熱の有無などから病気を絞り込みます。
また、海外への渡航歴がないかどうかも確認します。
そのうえで、感染性胃腸炎を診断するために以下の検査を行います。

  • 便検査
  • 血液検査
  • 大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
  • 腹部CT検査
  • 腹部エコー

感染性胃腸炎の原因菌を特定するには、便検査が必要になります。
便検査には、便中の抗原を調べる検査や、便を培養して病原菌を特定する検査があります。
ノロウイルス・ロタウイルスでは、便のなかの抗原を調べ、15分〜30分で診断が確定できます(迅速抗原検査)。
また、血液検査では、病原菌の毒素や抗体を測定できるものもあります。
便検査や血液検査で診断がつかないケースや、炎症が強い場合、原因がはっきりとわからない場合などに、大腸カメラ検査を行います。
大腸カメラで炎症の度合いを評価し、炎症の強いところから直接、組織を採取して培養検査を行います。
また、大腸カメラを行うことで、クラミジア、尖圭コンジローマ、赤痢アメーバ、ヒトパピローマウイルス(HPV)といった性感染症に伴う胃腸炎・直腸炎を診断することができます。
クラミジアでは直腸炎を生じ、大腸の粘膜はイクラ状に見えることが特徴です。
腹部CT・腹部エコーでは炎症の広がりを評価します。
病原菌を特定することは、自分が感染している病原菌が、他人にうつる可能性があるのか、もしうつる場合、感染力がどれくらいあるのかを判断するのに、非常に有効です。
また、仕事を休むべきかどうかの判断材料になり、適切な治療を行うためにも必要といえます。

カンピロバクター腸炎の内視鏡画像

カンピロバクターが病原菌で生じる腸炎は、特徴的な内視鏡所見があります。
それは、大腸と小腸の出入り口である「バウヒン弁」の上にできる浅い潰瘍です。
下の画像のように、浅い潰瘍(白い部分)があり、そのまわりの粘膜は、炎症で赤くなっています。

色素を撒くと、潰瘍がよりはっきりとわかります。
このバウヒン弁上の浅い潰瘍は、カンピロバクター腸炎の約40%の方にみられるといわれています。

尖圭コンジローマの内視鏡画像

尖圭コンジローマは性感染症の1つです。
これは、尖圭コンジローマに特徴的な内視鏡所見です。
通常、痛みやかゆみがなく、無症状です。
そのため、大腸カメラを行うことで偶然発見されるケースが増えています。
尖圭コンジローマは良性の腫瘍ですが、がん化(悪性化)することもあるため、注意が必要です。
組織を採取(生検)を行うことで、診断確定・治療を行いました。

尖圭コンジローマの内視鏡画像

感染性胃腸炎の検査費用

ノロウイルスの迅速抗原検査は、3歳未満もしくは65歳以上であれば、保険診療で検査可能です。
ロタウイルスの場合も、保険診療で検査が可能です
自費の場合、医療機関で異なりますが、3,000〜5,000円程度の費用です。
その他の便検査や画像検査は、保険診療で検査可能です。

感染性胃腸炎の治療

基本的に、症状に対する治療(対症療法)で軽快することが多いです。
具体的には、胃薬や整腸剤、漢方薬、痛み止めの投与を行います。
多くの場合、発症してから2〜7日で治ります。
炎症が強い場合や発熱を認める場合には、抗生物質の投与を検討します。
抗生物質は、病原菌によってキノロン系、マクロライド系、ホスホマイシン系、セフェム系、アミノグリコシド系、メトロニダゾールなどを選択して使用します。
炎症が強く、食事や水分の摂取が困難な場合には、数日間の入院治療を行う場合があります。
当院では、尖圭コンジローマを含め、性感染症の検査・治療も行っております。
お気軽にご相談ください。

治療薬(胃薬)の一覧

漢方薬の一覧

漢方薬 改善させる症状
五苓散 下痢、吐き気、胃腸炎
柴苓湯 下痢、胃腸炎、吐き気、食欲不振
人参湯 下痢、嘔吐、胃痛、胃炎
六君子湯 食欲不振、吐き気・嘔吐、消化不良、胃痛
半夏瀉心湯 消化不良、げっぷ、胸焼け
十全大補湯 食欲不振、だるさ

感染性胃腸炎を早く治す方法

日常生活の改善が重要となります。
消化の良いものを食べるように心がけましょう。
暴飲・暴食は避けて、よく噛んで食べるようにしましょう。
また、下痢が続くことで脱水になりやすいため、こまめに水分補給を行うようにしましょう。

食事について

感染性胃腸炎の際に、おすすめの食べ物、気をつけたほうがよい食べ物の一覧を以下にお示しします。

消化の良いもの 気をつける食べ物
  • ご飯
  • おかゆ
  • 素うどん
  • 食パン
  • スープ
  • 乳酸菌飲料
  • ヨーグルト
  • 乳製品(牛乳、豆腐、チーズ)
  • 加熱した卵
  • 火の通った野菜
  • 脂身の少ない肉類
  • 加熱した白身魚、はんぺん
  • 煮た大根やニンジン
  • りんご、バナナ
  • ヨーグルト
  • プリン、ゼリー など
  • 脂肪の多い食事
    炒飯、ラーメン、とんかつ、焼き肉、天ぷら、カレーライス など
  • 胡椒、唐辛子を多く使った料理
    唐揚げ、手羽先、チゲ鍋、四川料理 など
  • 刺激のある飲み物
    牛乳、コーヒ-、紅茶、エナジードリンク、アルコール、炭酸水、炭酸飲料 など
  • ソルビトールを多く含むもの
    海藻、リンゴ、桃、梨(なし)、プルーン など
  • 腸の動きを良くするもの
    納豆、さつまいも、みかん、オレンジ、レモン など
  • キシリトール入りのガム・アメ
  • 消化しにくいもの
    たこ、イカ、貝類、くらげ、ごぼう、たけのこ、れんこん、山菜、きのこ類、こんにゃく類、パイナップル、ぶどう、豆類  など
  • スイーツ
    チョコレート、ケーキ、洋菓子、ドーナツ、アイスクリーム など

お腹を冷やさないように

感染性胃腸炎が起こっている際には、お腹を温めるようにしましょう。
お腹が冷えることで血流が悪くなり、交感神経が優位となることで消化不良が生じてしまい、下痢が助長されてしまいます。

下痢止めの使用は控える

感染性胃腸炎があり、市販の下痢止めを使用する方がいらっしゃると思います。
たしかに下痢止めには即効性がありますが、下痢の根本的な解決・治療にはなりません。
感染性胃腸炎の場合、下痢によってウイルスや細菌を体外へ出さなければ、症状は持続し、増悪することがあります。
炎症が落ち着くまでは、下痢止めは使用しないようにしましょう。

感染性胃腸炎後の対策

感染性胃腸炎となった場合、多くの細菌やウイルスは症状が落ち着いたあとも数週間は便から排菌され、他人にうつる可能性があります。
排便後に肛門を拭いた手に菌が付着して、その手が他人や食べ物に接触することで、感染が広がります。
そのため、症状がある期間はもちろんですが、胃腸炎が治ってから数週間は手洗い・手指の消毒を徹底しましょう。

学校・仕事の復帰に関して

感染性胃腸炎では、「何日間、学校や職場を休まなければならない」といった明確な規則はありません。
そのため、「解熱して、腹痛や下痢といった症状が落ち着く」までが、休む基準の1つとなります。
また、症状が改善してからも数日間〜2週間程度、排菌するものもあり、他人にうつる期間が、病原菌によって異なります。
そのため必要に応じて、迅速検査や培養検査を行って、病原菌を特定することがあります。
職場(就業)に関しては、まずご自身の勤務先に確認しましょう。
接客業、調理する仕事などのサービス業である場合、会社・企業ごとに出勤できるかどうかの判断基準があると思われます。
また、欠席・欠勤に際して、診断書が必要となるケースがあります。
欠勤の期間・対応や診断書の作成などに関しても、お気軽に当院へご相談ください。

感染性胃腸炎は、老若男女誰しもが発症する可能性がある病気です。
感染力の強い病原菌に感染していた場合、他人に移してしまう危険性があります。
ふだんの胃腸炎と少し違う場合や、市販薬で治らない場合には、無理せずに一度消化器内科へ受診しましょう。

参考文献:

最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針 中山書店
消化器内視鏡 第26巻 12号 大腸疾患アトラス 東京医学社

日本大腸肛門病学会 感染性腸炎
https://www.coloproctology.gr.jp/modules/citizen/index.php?content_id=4

厚生労働省登録検査機関・登録衛生検査所 町田予防衛生研究所 食中毒は何時間後に発症する?
https://www.mhcl.jp/workslabo/hatena/senpukukikan#bb
日本感染症学会 JAID/JSC 感染症治療ガイドライン 2015 ―腸管感染症―
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/guideline_JAID-JSC_2015_intestinal-tract.pdf