虚血性腸炎とは
虚血性腸炎とは、大腸を栄養する血管の血流が悪くなることで、大腸に炎症を生じる病気です。
虚血性大腸炎とよばれることもあります。
典型的な症状の経過として、突然、強い左下腹部痛が出現し、下痢をきたしその後、血便を認めるようになります。
治療することで、数日間から2週間程度で治りますが、6〜12 %の割合で再発し、繰り返すという特徴があります。
虚血性腸炎は、50歳以上の方に多いですが、近年、慢性便秘やストレスが原因となり、10代から30代後半の方での発症も増えてきています。
また、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった動脈硬化を引き起こす基礎疾患をもつ方に発症しやすいという特徴があります。
虚血性腸炎の20〜30 %では、炎症が強くなることで、狭窄(大腸のなかが狭くなること)を生じるといわれています。
虚血性腸炎に関して、原因や、食べてはいけないものなどの細かい情報まで、消化器病専門医・内視鏡専門医・胃腸科専門医である院長が、分かりやすく・詳細に解説していきます。
虚血性腸炎のメカニズム
なぜ虚血性腸炎が生じるかというと、
- 血管の問題
- 大腸の問題
が病気の発症に関与しています。
①血管の問題として
- 血管の動脈硬化
- 血栓(血管のなかで血液が塊になったもの)
- 全身の血流が悪くなる
といった要因があります。
②大腸の問題として
- 便秘で大腸の中の圧(腸管内圧)が上がる
- 下剤の乱用で大腸の動きが活発になる
といったものがあります。
これらが複雑に絡み合って発症するといわれています。
腸を栄養する血管は、S状結腸と下行結腸の境目が虚血に陥りやすい部分です。
そのため、虚血性腸炎が発症することで、強い左下腹部痛を生じることが典型的です。
虚血性腸炎の原因
虚血性腸炎の原因は、
- 動脈硬化を引き起こす病気
- 腸管内圧(大腸のなかの圧)を上げる病気
- 大腸の動きを活発にする要因
の3つに分けることができます。
以下にそれぞれの原因をお示しします。
動脈硬化を引き起こす病気
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症
- 高尿酸血症
- 肥満(メタボ) など
腸管内圧(大腸のなかの圧)を上げる病気
- 便秘
- 脂肪の多い食事
- 運動不足 など
大腸の動きを活発にする要因
- 下剤の乱用
- 生活習慣の乱れ
- ストレス など
虚血性腸炎の症状
虚血性腸炎の典型的な症状には、以下のものがあります。
- 突然の腹痛
- 下痢
- 血便・下血
典型的な症状は、突然の腹痛、下痢、血便・下血です。
腹痛は左下腹部痛が多いです。
下血は真っ赤な鮮血であることが多いです。
下痢を出した後も、便意があるけれど、便が出ない状態が続きます(しぶり腹)。
その他の症状として、以下のものがあります。
- 発熱
- 狭窄(きょうさく)
- 腸閉塞(イレウス)
- 吐き気・嘔吐
- 穿孔(せんこう)
炎症が強くなると、微熱や発熱をきたすこともあります。
大腸のなかに潰瘍を生じたり、重症例では狭窄(大腸のなかが狭くなること)を生じることがあります。
虚血性腸炎では、S状結腸・下行結腸(大腸の左側)に炎症を認めることが多いです。
上行結腸(大腸の右側)に生じた場合は、潰瘍が深く、狭窄を生じやすい傾向があります。
炎症が強い場合や、狭窄を認める場合、腸閉塞(イレウス)を起こして、吐き気・嘔吐を起こします。
また、腸管が壊死することで、穿孔(穴があく)など重症となり、手術が必要となることもあります。
狭窄(大腸のなかが狭くなること)は、虚血性腸炎の20〜30 %の方で認められます。
似たような症状をきたす病気として、潰瘍性大腸炎があります。
虚血性腸炎を疑うチェックポイント
こちらの虚血性腸炎を疑うチェックポイントに該当する項目がないか、ご確認ください。
このような症状・エピソードを認める場合、なるべく早めに消化器内科を受診しましょう。
虚血性腸炎の検査・診断
虚血性腸炎と診断するための検査として、以下のものがあります。
- 血液検査
- 大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
- 注腸造影検査
- 腹部エコー検査
- 腹部CT検査
血液検査で、炎症や貧血の度合いを評価します。
大腸カメラを行うことで診断を確定させることが可能です。
また、炎症の程度、潰瘍の有無などを確認します。
注腸造影検査という、肛門から造影剤を注入してレントゲンを撮影する検査でも診断できます。(最近ではあまり行われなくなっています。)
腹部エコーや腹部CT検査で、腸管の炎症の広がりを評価します。
虚血性腸炎の内視鏡画像
こちらは虚血性腸炎の典型的な内視鏡画像です。
下行結腸からS状結腸にかけて、白い線のように縦に続く潰瘍(縦走潰瘍)がみられます。
炎症が強くなると、潰瘍が線状から全体的に広がっていきます。
粘膜全体(全周性)に潰瘍ができることで、腸のなかがせまくなり、腸閉塞(イレウス)を起こすこともあります。
虚血性腸炎の治療
炎症が軽度である場合、自宅療養が可能です。
治療期間は、数日間のものがほとんどです。
腹痛や血便などの症状が続いている際に動いてしまうと、腸炎が悪化してしまいます。
症状が落ち着くまでは、仕事を休むようにしましょう。
炎症が強い場合、安静、絶食、点滴による補液を行うために、入院が必要となります。
この場合、1, 2週間の治療期間を要します。
また、特別な治療薬は必要なく、症状に対して治療(対症療法)を行います。
炎症が強いケースでは抗生物質を投与することもあります。
退院後も炎症が少し残ることで、便秘が続くことがあります。
この場合、整腸剤を内服して消化のよい食べ物を摂取するようにしましょう。
炎症が落ち着いてくると、腸の動きが戻り、便秘は解消されることが多いです。
虚血性腸炎の大半は、数日間の入院で完治します。
一方で、治った後に6〜12 %の割合で再発するという特徴があります。
虚血性腸炎の予防・対処法
高血圧、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、肥満(メタボ)など基礎疾患をお持ちの方は、病気をしっかりとコントロールして、動脈硬化が進行しないようにしましょう。
また、虚血性腸炎の予防や対処法として、以下の点を参考にしてみてください。
食事に関して
炎症が強い時期は、消化の良いものを摂取するようにしましょう。
脂肪の多い食事(高脂肪食)は、腸管内圧を上げてしまい、虚血性腸炎の原因となりますので、注意しましょう。
おすすめする食べ物、食べてはいけないものの一覧を以下にお示しします。
○消化の良いもの | ✕気をつける食べ物 |
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便秘を解消させる
虚血性腸炎の発症の予防・再発予防として、便秘を回避することが重要です。
ふだんから便秘気味の方は、1日1回のスムーズな排便が行えるように、生活習慣の改善や内服薬を用いて、排便をコントロールしましょう。
生活習慣の改善として、
- 食生活の改善
- 腸内環境(腸内フローラ)の改善
- プロバイオティクス
- 運動・ストレッチ
などがあります。
生活面に関して
生活習慣の乱れや過度のストレスは、腸の動きを活発にさせて、虚血性腸炎を引き起こしやすくします。
十分な睡眠時間を確保し、規則正しい生活を行うことで、ストレス解消に努め、日常生活全般の改善を図るようにしましょう。
また運動不足にならないよう、日々の生活のなかで無理なく続けられるウォーキングや自転車、ジョギングなどを行うことが効果的です。
まとめ
虚血性腸炎は、動脈硬化がある50歳以上の方で多くみられます。
一方で、慢性的な便秘や下剤の乱用、精神的なストレスなどにより10代〜30歳代での発症が増えています。
治療を行うことで数日間で完治できますが、炎症が長引くことで、狭窄や穿孔といった合併症を引き起こします。
そのため、虚血性腸炎は早期に診断し、治療を行っていくことが重要な病気といえます。
少しでも血便や腹痛で気になることがあれば、お気軽に当クリニックへご相談ください。
参考文献:
胃と腸アトラスⅡ 下部消化管 第2版 医学書院
内視鏡診断のプロセスと疾患別内視鏡像-下部消化管 改訂第4版 日本メディカルセンター
最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針 中山書店
消化器内視鏡 第26巻 12号 大腸疾患アトラス 東京医学社
日本大腸肛門病学会 大腸憩室出血、虚血性腸炎
https://www.coloproctology.gr.jp/modules/citizen/index.php?content_id=3
日本消化器病学会 「消化器のひろば」 No.13
https://www.jsge.or.jp/citizens/hiroba/backnumbers/hiroba13/hiroba13_03