吐き気とは
吐き気とは、胃のなかの胃液・⾷べ物が逆流することで⽣じる、吐きたくなる差し迫った感覚や、みぞおちのムカムカとした不快感のことです。
吐き気は、悪⼼(おしん)や嘔気(おうき)ともよばれます。
胃腸炎、ストレス、アルコールの多飲、妊娠、薬剤の副作⽤、頭痛などが主な原因です。
吐き気は、誰しも⼀度は経験したことがある症状の1つです。
吐き気は、嘔吐中枢が刺激されることで⽣じます。
胃や腸の病気以外にも、すい臓、胆嚢、肝臓、⼼臓、⽿、脳、腎臓、卵巣などの病気や、ミネラル・ホルモンバランスの異常などさまざまな病気によって⽣じます。
突然の吐き気・嘔吐を起こす場合、迷⾛神経反射などの神経の問題や、起⽴性低⾎圧、精神的ストレスが関与している可能性があります。
頻回の嘔吐により、極度の脱⽔状態となったり、⼤量に吐⾎してしまうこともあります。
吐き気が続いて⽌まらない場合、まずは消化器内科へ受診しましょう。
吐き気に関して、吐き気⽌め・即効性のあるツボなどの細かい情報まで、消化器病専⾨医・内視鏡専⾨医・胃腸科専⾨医である院⻑が、分かりやすく・詳細に解説していきます。
吐き気の原因となる嘔吐中枢とは?
嘔吐中枢とは、延髄という頭・⾸の付け根の後部にあります。
嘔吐中枢が、胃や腸、⼼臓、肺などの内臓からの刺激を受けて、吐き気を⽣じさせます。
具体的には、胃腸炎、頭痛、尿管結⽯などで、痛みが続くことで嘔吐中枢が刺激され、吐き気が⽣じます。
また、気持ちの悪いものを⾒たり、嫌なにおいを嗅ぐことで、視覚や嗅覚が刺激されて、吐き気を催すこともあります。
緊張、精神的なストレス、不安、恐怖も嘔吐中枢を刺激して、吐き気を誘発します。
吐き気のメカニズムとして、⾃律神経やドパミン・セロトニンなどの神経伝達物質が作⽤して、嘔吐中枢が刺激されることで⽣じるといわれています。
吐き気の原因
吐き気の原因となる病気はさまざまあり、
- 消化器の病気
- 消化器以外の病気
- 薬剤によるもの(薬剤性)
の3つに分類されます。
病気じゃなくても、慢性的な肩こりや寝不⾜・ストレスからくる頭痛が原因で、吐き気が⽣じる場合もあります。
突然の嘔吐は、迷⾛神経反射や起⽴性低⾎圧の可能性があります。
以下に吐き気を⽣じる病気の⼀覧をお⽰しします。
消化器の病気
原因となる臓器 | 具体的な病気 |
---|---|
消化管 | など |
肝・胆・膵 |
|
消化器以外の病気
原因となる臓器 | 具体的な病気 |
---|---|
⼼臓 | ⼼筋梗塞、狭⼼症、⼤動脈解離 など |
肺 | 気管⽀喘息、胸膜炎、肺炎 など |
脳 | 髄膜炎、脳炎、くも膜下出⾎、⼩脳出⾎、脳梗塞、頭部外傷、脳腫瘍、⽚頭痛、てんかん など |
⽿ | メニエール病、中⽿炎、良性発作性頭位めまい症 など |
⽬ | 緑内障、眼精疲労 など |
のど | 扁桃炎、咽頭炎、アデノイド など |
ホルモン・代謝 | 副腎不全、甲状腺機能亢進症(甲状腺クリーゼ)、副甲状腺機能亢進症、⾼カルシウム⾎症、糖尿病ケトアシドーシス、尿毒症 など |
⼦宮・卵巣 | 妊娠、卵巣茎捻転、⽉経困難症(⽣理前の吐き気)、更年期障害、⼦宮がん、卵巣がん など |
腎臓・尿管 | 尿管結⽯、腎盂腎炎 など |
メンタル | 神経性⾷思不振症、神経性⼤⾷症、適応障害、ヒステリー、うつ病、アルコール離脱症候群、精神的ストレス など |
その他 | ⽚頭痛、脱⽔、熱中症、貧⾎、⾼⾎圧、起⽴性低⾎圧、迷⾛神経反射、敗⾎症、アナフィラキシーショック、低⾎圧 など |
薬剤によるもの(薬剤性)
モルヒネ、オピオイド(医療麻薬)、ジキタリス(強心薬)、抗がん剤、抗精神病薬、抗生物質 など
吐き気に伴う症状
吐き気に伴う症状の有無が診断していくうえで非常に重要です。
吐き気に伴う主な症状として、頭痛、腹痛、胸痛、めまい、吐血、意識障害があります。
以下に、吐き気に伴う症状と考えられる病気の一覧をお示しします。
伴う症状 | 考えられる病気 |
---|---|
頭痛 | 急性緑内障、⽚頭痛、くも膜下出⾎、脳出⾎、脳梗塞 など |
腹痛 | 胃・⼗⼆指腸潰瘍、急性⾍垂炎、急性膵炎、腸閉塞(イレウス)、急性胆管炎・胆嚢炎、胆⽯発作、慢性膵炎、すい臓がん、虚⾎性腸炎、腎盂腎炎、尿管結⽯、アルコール多飲、⾷中毒 など |
胸痛 | 狭⼼症、⼼筋梗塞、⼤動脈解離 など |
めまい | 良性発作性頭位めまい症、低⾎圧、⼩脳出⾎、⼩脳梗塞 など |
吐⾎ | マロリーワイス症候群、胃がん、胃・⼗⼆指腸潰瘍 など |
意識障害 | 糖尿病ケトアシドーシス、髄膜炎、脳炎、脳梗塞、脳出⾎、くも膜下出⾎ など |
通常、どの臓器の病気でも痛みが強くなれば、吐き気を伴うようになります。
下痢を認める場合、急性胃炎や感染性胃腸炎が考えられ、発熱・寒気を伴う場合、なんらかの細菌感染が考えられます。
急性膵炎では、背中の痛みも伴います。
息苦しい場合、肺の病気や精神的な病気を視野に⼊れていきます。
冷や汗を伴う突然の吐き気を認めた場合、緊急性が⾼い可能性があります。
吐き気で緊急性が⾼い状態とは?
吐き気に伴い、以下のチェックポイントに該当する症状がある場合、緊急を要する状態である可能性があります。
このような危険な症状・エピソードを認める場合、なるべく早めに消化器内科を受診しましょう。
嘔吐したものでわかること
真っ⾚な鮮⾎が出た場合、⾷道、胃、⼗⼆指腸から⼤量に出⾎している可能性が⾼いです。
また、海苔の佃煮のような⿊いものを嘔吐した場合、⾷道、胃、⼗⼆指腸からの出⾎を考えます。
いずれにしても、緊急で胃カメラを⾏う必要があります。
嘔吐した際に、吐物が⻩⾊・緑⾊の液体であった場合、胆汁を吐いている状態です。
⾼度の脱⽔である可能性もあるため、医療機関へ受診するようにしましょう。
吐き気の検査・診断
吐き気の原因を診断するために、以下の検査を患者様の状態に合わせて⾏います。
- ⾎液検査、尿検査
- レントゲン検査
- ⼼電図検査
- 胃内視鏡検査(胃カメラ)
- ⼤腸内視鏡検査(⼤腸カメラ)
- 超⾳波検査(エコー)
- CT検査
- MRI検査
⾎液検査では、炎症、貧⾎、ミネラル・ホルモンバランス異常、肝臓・胆管・すい臓の酵素の異常の有無を評価します。
頭部外傷が疑われる場合、頭部レントゲンを⾏い、肺炎が疑われる場合は胸部レントゲン、腸閉塞(イレウス)が疑われる場合は腹部レントゲンを⾏います。
⾷道や胃からの出⾎が疑われる場合、緊急で胃カメラを⾏います。
⾷道がんや胃がん、胃アニサキス症などが疑われる場合にも胃カメラを⾏います。
クローン病や⼤腸がん、感染性胃腸炎が疑われる場合には、⼤腸カメラを検討します。
また必要に応じて、エコー検査やCT、MRI検査を⾏います。
実際の胃カメラ動画
実際に口から胃カメラを入れてどのように観察しているかを見ていきましょう。
当クリニックで行っている観察方法をご説明致します。
胃カメラは、吐き気の原因を診断するために、有用な検査です。
吐き気の治療
突然の吐き気・嘔吐は、迷⾛神経反射や起⽴性低⾎圧の可能性があり、すぐに横になることが⼤切です。
その後、横になりながら深呼吸をしましょう。
軽度の胃腸炎・ストレスに伴う吐き気では、吐き気⽌め(制吐薬)の内服・座薬・点滴を⾏うことで症状の改善が期待できます。
また、原因になっている病気の治療を並⾏して⾏います。
吐き気が強く、⽔分や⾷事が取れない場合、点滴や⼊院治療も検討します。
頻回に嘔吐したことで、胃液しか出ない場合や、吐きたくても吐けない場合、体が脱⽔になっている可能性が⾼いです。
⽔分摂取は、15分〜20分に1回、少量ずつ飲むようにしましょう。
それでも吐いてしまう場合、点滴が必要ですので医療機関へ受診しましょう。
制吐薬(吐き気⽌め)の⼀覧
吐き気に使⽤する制吐剤は作⽤機序から3つに分類されます。
制吐薬が作⽤する物質は以下の3つになります。
- ドパミン
- ヒスタミン
- セロトニン
吐き気⽌めは、それぞれの受容体(受け⽫)に作⽤して、効果をブロックするように働きかけることで、吐き気を抑えます。
制吐薬の⼀覧を以下にお⽰しします。
制吐薬⼀覧
吐き気に有効な漢⽅薬
吐き気で使⽤する漢⽅薬の⼀覧を以下にお⽰しします。
漢⽅薬の⼀覧
漢⽅薬 | 改善させる症状 |
---|---|
六君⼦湯 | 胃痛、⾷欲不振、吐き気・嘔吐 |
柴苓湯 | 吐き気、⾷欲不振 |
⼗全⼤補湯 | ⾷欲不振、だるさ |
これらの漢⽅薬を、制吐剤と組み合わせて使⽤していきます。
吐き気の対処法
1.嘔吐したあとの⾷事
嘔吐したあとは胃や腸が弱っています。
⾷事は消化のよいものを⾷べるように⼼がけましょう。
また、強いにおいのする⾷べ物・⾷事は、吐き気を増悪させる可能性があるので控えましょう。
⾷事に適している⾷べものと控えたほうがいいものの⼀覧を以下にお⽰しします。
症状がある間は、参考にしてみて下さい。
○消化の良いもの | ✕気をつける食べ物 |
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2.吐き気がある際に有効な飲み物
吐き気のある時や、嘔吐したあとには⽩湯、ノンカフェインのお茶(⻨茶、番茶)などを少量ずつ飲むようにしましょう。
においのきついジュースやドリンクは吐き気を催してしまう可能性があるので控えましょう。
また、コーヒーや紅茶などは胃や腸が刺激されるため、控えましょう。
3.吐き気・嘔吐時の体勢
嘔吐しそうなときの寝る姿勢は、仰向けは避けて、横向きになりましょう。
特に右を下にして横向きになることで、胃酸や胃の中の内容物が⼗⼆指腸へ流れやすくなります。
また、起き上がる際にはゆっくり起き上がるようにしましょう。
急いで起き上がることで、吐き気が⽣じることがあります。
4.吐き気に効くツボ
吐き気に有効なツボは、⼿⾸の内側に内関(ないかん)です。
⼿⾸の関節から指3本分離れたところにあり、ここを5分程度押すことで、吐き気を抑える効果が期待できます。
緊張やストレスによる吐き気や、乗り物酔いに有効であるとされています。
個⼈差はありますが、あくまで「即効性のある⼀時しのぎの対処法」ですので、症状が続いたりひどくなるようであれば、医療機関へ受診しましょう。
まとめ
吐き気は⽇常的によくみられる症状の1つでありますが、持続する場合や突然発症した場合には、思わぬ病気が隠れている可能性があります。
また、⾷事・⽔分が取れなくなることで、⽇常⽣活に⽀障をきたしたり、命の危険に関わるケースも少なくありません。
吐き気が続いて⽌まらない・眠れない場合や、吐き気に関して気になることやお悩みのことがあれば、当クリニックへお気軽にご相談ください。
参考文献:
最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針 中山書店
消化器癌治療の広場 副作⽤対策講座 悪⼼・嘔吐
https://www.gi-cancer.net/gi/fukusayo/fukusayo_03_1.html
⽇本緩和医療学会 嘔気・嘔吐の病態⽣理
https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/gastro_2011/02_01.pdf
⽇本癌治療学会 制吐薬適正使⽤ガイドライン 2023年10⽉改訂 第3版 草案
https://www.jsco.or.jp/Portals/0/5_Guideline/seitoyaku/antiemesiscpg2023draft.pdf