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逆流性食道炎

逆流性⾷道炎とは

逆流性⾷道炎とは、胃のなかの胃液や胆汁が逆流することで⾷道に炎症が⽣じて、胸焼け・のど のつかえ感・不快感などを⽣じる病気です。
ピロリ菌感染の低下、脂っこく⾼カロリーな⾷事、⾼齢化に伴い、⽇本で逆流性⾷道炎は増加傾 向です。
近年、ストレス社会の影響もあり、中学⽣・⾼校⽣や20歳代で多く認めます。 ⽇本⼈の⾷⽣活の変化などにより増加し、⽇本⼈の15〜20%が逆流性⾷道炎であるといわれて います。
逆流性⾷道炎の初期症状は多種多様であり、症状の出⽅には個⼈差があります。 逆流性⾷道炎を放置して、胃酸の逆流が⻑く続くと、「バレット⾷道」が⽣じて、⾷道がん(バ レット腺がん)のリスクが⾼くなります。
市販薬の胃薬で症状が治らない場合は、放置せずに消化器内科へ受診しましょう。 逆流性⾷道炎に関して、治し⽅・おすすめの⾷事や飲み物・気をつけることなど細かい情報ま で、消化器病専⾨医・内視鏡専⾨医・胃腸科専⾨医である院⻑が、分かりやすく・詳細に解説し ていきます。

逆流性⾷道炎とは

胃⾷道逆流症(GERD)の分類

⼀般的に、逆流性⾷道炎をGERDということが多いです。
厳密にいうと、逆流性⾷道炎は、胃⾷道逆流症のなかで⾷道の炎症を伴うものと定義されていま す。
そのため、⾃覚症状がなくても、胃カメラでびらん・潰瘍を認めた場合、逆流性⾷道炎と診断 されます。
⼀⽅で、⾃覚症状はあるものの、⾷道に炎症を認めないものは⾮びらん性GERD(NERD)とよ ばれています。
NERD・逆流性⾷道炎いずれにおいても、治療が必要となります。

胃⾷道逆流症(GERD)の分類

逆流性⾷道炎の原因

逆流性⾷道炎の主なメカニズムは、

  • 胃酸の分泌が増える
  • 胃・⾷道接合部のゆるみが⽣じる
  • ⾷道の動きを悪くさせる

の3つがあります。
これらを引き起こす原因には以下のものがあります。

  • ピロリ菌の除菌治療後 早⾷い
  • 暴飲・暴⾷
  • 脂肪分の多い⾷事
  • 刺激物(⾹⾟料)の多い⾷事 ストレス

胃酸の分泌が増える原因には、ピロリ菌除菌があります。
ピロリ菌は胃のなかで⽣存するために胃酸を中和しています。除菌を⾏うことで、それまで中和 されていた胃酸のぶんだけ胃酸が増えます。
また、早⾷いをすることや⾷べ過ぎ、アルコールの多飲は胃酸の分泌を増やします。 カレーライスや担々麺、激⾟料理、ハンバーガーなどの脂肪分が多い⾷事や、刺激物の多いの⾷ 事を多く⾷べると、胃酸が過剰に分泌されます。
寝不⾜などの⾝体的ストレスや、仕事や家事などでの精神的ストレスが原因で、胃酸の分泌が増えます。

  • ⾷道裂孔ヘルニア
  • 加齢
  • 肥満
  • 不規則な⾷事時間
  • 姿勢の悪さ(猫背・腰が曲がっている)
  • 腹圧の上昇(妊娠中・便秘・肥満)
  • 胃の⼿術後 など

加齢により⾷道裂孔ヘルニアは増えていきます。
⾷道裂孔ヘルニアにより、⾷道と胃のつなぎ⽬がゆるくなり、胃酸や胆汁が逆流しやすくなり ます。
また、「中年以降でメタボ体型」の⽅は、胃・⾷道接合部にゆるみが⽣じて、胃酸が逆流しま す。
⾷事時間が不規則だと、胃と⾷道のつなぎ⽬の括約筋がゆるくなります。 また、体脂肪が溜まりやすくなり、肥満の原因となります。
猫背や腰が曲がってしまうことで、⾷道裂孔ヘルニアが⽣じるため、常に胃液が逆流しやすくな ります。
また、妊娠中や便秘、肥満の⽅は、常に腹圧がかかっているため、胃液が逆流しやすいくなりま す。
胃を切除してしまうと、胃酸や胆汁をとどめておけるスペースが少なくなるため、逆流性⾷道炎 を引き起こしやすくなります。
また、⾼⾎圧の治療で⽤いられるカルシウムの内服でも、胃・⾷道接合部の括約筋がゆるくなり ます。

  • 糖尿病
  • 強⽪症
  • シェーグレン症候群

⾷道の動きを悪くさせる糖尿病や、強⽪症・シェーグレン症候群などの⾃⼰免疫性疾患も、逆流性⾷道炎の原因となります。

逆流性⾷道炎の症状

以下に、逆流性⾷道炎の初期症状として頻度の⾼い順に並べています。

  • 胸のあたりが熱く、ヒリヒリとしみる(胸焼け)
  • すっぱいものがこみ上げる(呑酸感)
  • ⾷べ物を飲み込むときにつかえる
  • 脂っこいものを⾷べて不快感やげっぷが出る
  • のどのイガイガが続く
  • ⼝臭が気になる
  • のどに何か張りついている感じがする
  • むせてしまい、咳(せき)が出る

胸焼けや呑酸感(どんさんかん)などは、空腹時や夜間にみられやすいのが特徴です。 その他、胃痛や胃もたれ、吐き気・嘔吐体重減少、不眠などの症状も起こります。 また、胃酸が上がってくることで、⼝臭を⾃覚するようになったり、咳が出るようになります。 逆流性⾷道炎が続くことで、以下の症状が認められます。

  • 喘息のような症状が出る
  • 声がかすれる
  • ⽿の違和感・痛み
  • ⽿鳴り
  • ⾼い声が出にくくなる
  • のどの違和感

また、⼼臓の病気でみられる胸痛と似たような胸の痛みが⽣じることもあります。
その他、背中の痛み、むせる、声がかすれる、息苦しい、しゃっくり、めまいなどの症状が認め られることがあります。
これらのつらい症状が持続したり、すぐ治ったと思ってもまた再発するなど、症状の出⽅には個⼈差があります。

逆流性⾷道炎を疑うチェックポイント

こちらの逆流性⾷道炎を疑うチェックポイントに該当する項⽬がないか、ご確認ください。

このような症状を認める場合、早めに消化器内科を受診しましょう。

このような症状を認める場合、早めに消化器内科を受診しましょう。

逆流性⾷道炎の検査・診断

逆流性⾷道炎と診断するために⾏う検査には以下のものがあります。

  • 胃内視鏡検査(胃カメラ)
  • ⾷道内圧検査
  • ⾷道pHモニタリング

逆流性⾷道炎の診断で1番重要なのは胃カメラ(胃内視鏡検査)です。
⾷道の粘膜を直接観察し、炎症の度合いやびらん・潰瘍の有無を確認していきます。
⾷道内圧検査では、⾷道と胃のつなぎ⽬である下部⾷道括約筋の圧を測定し、下がっていることを確認します。
⾷道pHモニタリングでは、⾷道内のpH < 4.0となる時間が4〜5%を超えた場合、異常な逆流と判断します。
⾷道内圧検査や⾷道pHモニタリングに関しては、⼤学病院などでしか検査を⾏えません。
通常、胸焼けなどの症状と胃内視鏡検査のみで、逆流性⾷道炎の診断を確定できます。

逆流性⾷道炎の検査・診断

診断のための質問ツール「改訂Fスケール」

逆流性⾷道炎や機能性ディスペプシアを診断するための「アンケートツール」として、改訂Fス ケールがあります。
14項⽬の質問に、
[ない(0点)・まれに(1点)・時々(2点)・しばしば(3点)・いつも(4点)] の5段階で記⼊していきます。
1 〜7の質問は、逆流性⾷道炎の症状であり、
8 〜 14の質問は、機能性ディスペプシアの症状となります。
合計点数が[8点]以上である場合、逆流性⾷道炎が疑われるため、消化器内科へ受診しましょう。

Kusano M. et al. J Gastroenterol. Hepatol 2012 277 1187-91. より引⽤

Kusano M. et al. J Gastroenterol. Hepatol 2012 277 1187-91. より引⽤

胃カメラによる重症度分類(グレード)

胃⾷道逆流症(GERD)の重症度は、胃カメラで胃・⾷道接合部の⾷道粘膜を直接観察することで評価します。
具体的には、

  • グレードN(NERD)
  • グレードM A B C D(逆流性⾷道炎)

と、6段階に分類されます(改訂ロサンゼルス分類)。
重症度に応じて、内服薬の⽤量や内服する薬の種類などを検討していきます。

改訂ロサンゼルス分類

改訂ロサンゼルス分類

それでは、実際の各ステージの内視鏡画像を、1つずつ⾒ていきましょう。

正常な胃・⾷道接合部(GERDなし)
⾷道と胃のつなぎ⽬に炎症を認めません。

GERD(グレードM)の内視鏡画像

GERD(グレードM)の内視鏡画像

⾷道と胃のつなぎ⽬が、⽩く縁取られています。
グレードMは➀周り全体が⽩くなるタイプと、➁周りの⼀部が⾚くなるタイプの2種類がありま す。

GERD(グレードA)の内視鏡画像

GERD(グレードA)の内視鏡画像

5mm以下の粘膜障害(⾚い三⾓形)がみられます

GERD(グレードB)の内視鏡画像

GERD(グレードB)の内視鏡画像

5mm以上の粘膜障害(⾚い線)がみられます

GERD(グレードC)の内視鏡画像

GERD(グレードC)の内視鏡画像

5mm以上の連続した粘膜障害(⾚い線と内部が⽩い部分)を認め、⾷道の奥(胃側)のほうで他の粘膜障害と、⼀部つながっています。

GERD(グレードD)の内視鏡画像

GERD(グレードD)の内視鏡画像

5mm以上の連続した粘膜障害(⾚い線と内部が⽩い部分)を多数認め、⾷道の奥(胃側)のほうで、ほぼ全周にわたって粘膜障害がつながっています。

GERD(グレードD)の内視鏡画像

逆流性⾷道炎の合併症

逆流性⾷道炎によって以下のような合併症を引き起こします。

  • バレット⾷道
  • ⾷道がん(バレット腺がん)
  • 気管⽀喘息

⾷道に胃酸の逆流が続くで、⾷道の粘膜が胃の粘膜に置き換わります。
この胃の粘膜に置き換わった部分を「バレット⾷道」といい、ここから⾷道がん(バレット腺 がん)が発⽣します。
バレット⾷道から⾷道がんになる確率は、1年間で約0.5%といわれています。
バレット⾷道の⾯積が⼤きくなればなるほど、発がんするリスクが⾼くなることがわかっていま す。
気管⽀喘息の患者様の約50%以上が、逆流性⾷道炎を合併していると報告されています。

逆流性⾷道炎の治療・治し⽅

治療の⽬標は、症状を緩和させることと、⾷道がん(バレット腺がん)などの合併症を予防する ことになります。
逆流性⾷道炎の治療は、薬物治療と⽣活習慣の改善の両⽴が重要になります。
内服薬には主に、
➀胃薬
➁消化管の動きを改善する薬

をメインに使⽤します。
その他、
➂漢⽅薬
➃⾷道の粘膜を保護する薬
➄胃酸を中和する薬(制酸薬)

などを患者様の症状に合わせて、補助的に使⽤していきます。
ご年配で腰が曲がっている⽅は、常に胃酸が逆流しやすい状態が続いているため、強⼒な酸分泌 抑制薬が必要となります。
また、⾷道に炎症がある場合、⾃然治癒することは難しく、適切な内服薬での治療が必要となります。
➀胃薬
➁消化管の動きを改善する薬

胃の動きを良くすることで、⾷道への胃酸や胆汁の逆流を防ぎ、胃からの胃酸や胆汁の排出を促進します。
胸焼けや呑酸感を改善するだけでなく、胃もたれや⾷後の不快感、げっぷを改善する効果が期待できます。
胃薬単独で効かない場合や、症状が強い場合に、酸分泌抑制薬に併⽤して使⽤します。

治療薬の⼀覧

治療薬の⼀覧

➂漢⽅薬
逆流性⾷道炎で使⽤する漢⽅薬の⼀覧を以下にお⽰しします。

漢⽅薬の⼀覧

漢⽅薬 改善させる症状
六君⼦湯 ⾷欲不振、吐き気・嘔吐
半夏厚朴湯 ⾷道のつまり感
半夏瀉⼼湯 げっぷ、胸焼け、消化不良
⼤建中湯 お腹の張り(腹部膨満感)
柴苓湯 吐き気、⾷欲不振

逆流性⾷道炎の対処法

⾷べ過ぎや⾼脂肪⾷は、⾷道への胃酸逆流を増悪させるので、バランスの良い⾷⽣活が治療の基 本になります。

1. ⽇常⽣活で気をつけること

逆流性⾷道炎を予防するために⽇常⽣活で避けること、やってはいけないこと、気をつけること としては、以下のものがあります。

⽇常⽣活で避けること (やってはいけいないこと) ⾷事の際に気をつけること
  • おなかの締めつけ
    (コルセットやベルトなど)
  • 重いものを持つ
  • 猫背(前屈姿勢)
  • 左を下にして寝る
  • 肥満
  • 喫煙
  • 腹圧をかける運動・筋トレ
  • 暴飲・暴⾷
  • 早⾷い
  • ⼣⾷後すぐに横にならない
  • 寝る前に⾷事しない

寝る3時間前までに飲⾷を済ませるように⼼がけましょう。
左を下にして寝ること(左側臥位)で、胃酸が物理的に逆流しやすくなり、夜に寝れなくなるケ ースもあります。
症状を少なくする楽な姿勢として、「右を下にして寝ること」が有効であり、胃酸が⼩腸へ流れ やすくなります。
また、寝る前にコップ⼀杯のぬるめの⽔や⽩湯を飲むことで症状は改善します。
タバコ(喫煙)も症状を悪化させるので、症状が強いときには控えましょう。
朝起きた時に、呑酸感(⼝のなかが酸っぱい・苦い)と⾃覚される⽅は、寝る際に枕を少し⾼くするなどして、上半⾝を少し上げることで症状の改善が期待できます。

2. おすすめの⾷事や飲み物・⾷べない⽅がいいもの

消化のいい⾷べ物、⾷べ過ぎ・飲み過ぎを避けたほうがよいものには、以下のものがあります。

おすすめの⾷事や飲み物・⾷べない⽅がいいものの⼀覧

消化の良いもの 気をつける⾷べ物
  • ご飯、おかゆ
  • 素うどん
  • ⾷パン
  • スープ
  • 乳製品
    (⾖腐、チーズ)
  • 加熱した卵
  • ⽕の通った野菜
  • 脂⾝の少ない⾁類
  • 加熱した⽩⾝⿂、はんぺん
  • 煮た⼤根やニンジン
  • ⽜乳
  • 乳酸菌飲料
  • りんご、バナナ、桃
  • ヨーグルト
  • プリン、ゼリー
など
  • 脂肪の多い⾷事
    炒飯、ラーメン、とんかつ、天ぷら、カレーライスなど
  • 胡椒、唐⾟⼦を多く使った料理
    唐揚げ、⼿⽻先、チゲ鍋、四川料理など
  • スイーツ
    チョコ、ケーキ、洋菓⼦、ドーナツ、アイスクリームなど
  • 刺激のある飲み物
    コーヒ-、炭酸⽔、炭酸飲料、アルコールなど
  • 酸味の強い柑橘類
    みかん、レモンなど

⽣活習慣の改善、⾷⽣活の改善が治療効果にも⼤きく影響しますので、気をつけましょう。
胸焼け・げっぷなどの逆流性⾷道炎の症状は、⾃然に治ることは少ないです。
症状が⻑期化し放置するほど、バレット⾷道が⽣じて、⾷道がんの発がんリスクが上昇します。
また、酸分泌抑制薬(PPI)を服⽤することで、⾷道がんの発がんを71%抑制するという結果が⽰されています。
少し胸焼けが続くだけだと軽視せずに、症状が続いている場合はなるべく早めに消化器内科へ受診しましょう。
症状や病気のことで何かお困りのことがあれば、当クリニックへお気軽にご相談ください。

参考⽂献:

胃と腸アトラスⅠ 上部消化管 第2版 医学書院
内視鏡診断のプロセスと疾患別内視鏡像-上部消化管 改定第4版 ⽇本メディカルセンター
最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針 中⼭書店
⽇本消化器病学会 胃⾷道逆流症(GERD)診療ガイドライン 2021(改訂第3版)
https://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/pdf/gerd2021r_.pdf
⽇本⼩児外科学会 胃⾷道逆流症
http://www.jsps.or.jp/archives/sick_type/i-shokudou-gyakuryushou
⽇本消化器病学会ガイドライン 患者さんとご家族のためのガイド 胃⾷道逆流症(GERD)
https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/gerd.html
⽇本消化器内視鏡学会 胸やけ(逆流性⾷道炎)の原因は内視鏡でわかりますか?
https://www.jges.net/esophagus-stomach_09