胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍とは
胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍とは、胃や⼗⼆指腸にできる深い傷です。
潰瘍ができる原因は、➀痛み⽌めで使⽤される消炎鎮痛剤(NSAIDs)、➁ピロリ菌感染が多いですが、近年はストレスによるものも増えてきています。
潰瘍ができることで、初期症状として、腹痛、げっぷ、胸焼けなどが認められます。
学校や職場で、イライラ・緊張・不安などの精神的なストレスや、過労・睡眠不⾜などの⾝体的ストレスが溜まってないでしょうか?
ストレスが溜まると、胃酸の量が増え、胃や⼗⼆指腸の粘膜が傷つき、潰瘍ができます。
また、⼏帳⾯・完璧主義な性格の⽅は、潰瘍ができやすくなるといわれています。
胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍に関して、ステージ・治し⽅・⾷事・何⽇で治るかなどの細かい情報まで、消化器病専⾨医・内視鏡専⾨医・胃腸科専⾨医・ピロリ菌感染症認定医である院⻑が、分かりやすく、詳細に解説していきます。
胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍の原因
胃潰瘍、⼗⼆指腸潰瘍の2⼤原因は
➀痛み⽌めで使⽤される消炎鎮痛剤(NSAIDs)
➁ピロリ菌感染
です。
いずれの原因も、潰瘍からの出⾎リスクを⾼めます。
その他、潰瘍を起こす原因として、以下のものがあります。
- 痛み⽌め(ロキソニン、ボルタレンなど)
- ピロリ菌の感染
- 抗⾎⼩板薬(アスピリン)
- ストレス
- たばこ(喫煙)
- カフェイン、⾹⾟料、アルコールの⼤量摂取
- 性格(⼏帳⾯、完璧主義、神経質)
痛み⽌めである⾮ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)で注意が必要なのは、湿布を使⽤しているだけでも、胃潰瘍や⼗⼆指腸潰瘍が⽣じてしまう点です。
ですので、湿布薬を常⽤している⽅では、胃薬の内服が必要となります。
最近の胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍の原因として、ストレスが注⽬されており、「ストレス潰瘍」として認知されてきています。
具体的には、
- 過労、睡眠不⾜、⼿術後などの⾝体的ストレス、
- 就職・転勤などの環境の変化、離婚や親しかった⼈の死別などの精神的⽀えの喪失、失業、破産などの精神的ストレス
が原因となるケースが多いです。
胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍の初期症状
胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍の初期症状としてみられやすいのは、
以下の4つです。
- 腹痛
- 吐き気
- 胸焼け
- げっぷ
初期症状だけでは、胃炎や機能性ディスペプシア、逆流性⾷道炎などとの判別がつかないため、診断のために胃カメラを⾏うことが推奨されます。
胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍の症状
以下に胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍でみられる症状に関して、説明していきます。
- 腹痛
- 背部痛(背中の痛み)、腰痛
- ⾷欲低下
- 体重減少
⾃覚する症状の90%は腹痛であり、初期症状としてみられます。
潰瘍ができると、お腹のみぞおちのあたり、お腹の右上あたりが痛くなります。
潰瘍が進⾏すると、背中や腰の痛みを⽣じることがあります。
また、胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍の約半数は空腹時に痛みが⽣じます。
胃潰瘍では⾷後すぐに、⼗⼆指腸潰瘍では夜間に痛みが出やすいのが特徴です。
⼗⼆指腸潰瘍の場合、⾷事を⾷べることで痛みが軽減されることがあります。
- 吐き気・嘔吐
- 胸焼け
- お腹が張る(腹部膨満感)
- げっぷ
潰瘍で胃や⼗⼆指腸の動きが悪くなるため、胃にガスや⾷べ物がたまりやすくなります。
その結果、吐き気・嘔吐や胸焼け、お腹が張る感じ、げっぷを起こしやすくなります。
- 吐⾎
- 下⾎
- タール便(⿊⾊便)
- 下痢
- ⾎便
- 貧⾎
潰瘍から出⾎することで吐⾎・下⾎を⽣じたり、⿊い便(タール便)が⽣じます。
潰瘍からの出⾎は、⿊⾊のコーヒーの残りかすや海苔の佃煮のように⾒えることが多いです。
胃や⼗⼆指腸から出た⾎液が、胃酸で酸化することで⿊い⾊となり、⿊⾊の吐物や⿊⾊便、⿊っぽい下痢が出るようになります。
出⾎量が多い場合は、鮮⾎・暗⾚⾊の⾎便を認めることがあり、輸⾎が必要となることがあります。
胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍の合併症
潰瘍が⻑期化したり、炎症が強くなることで、以下のような合併症を⽣じることがあります。
- 狭窄(きょうさく)
- 穿孔(せんこう)
- 急性膵炎(すいえん)
- 腹膜炎
炎症が強くなることで、胃や腸のなかが狭くなり(狭窄)なることがあります。
また、胃や腸の壁に⽳があいて(穿孔)、⾷べ物などが胃の外に漏れ出すことで、腹膜炎を起こすことがあります。
腹膜炎を起こすことで、発熱・歩くだけで響く痛みを伴います。
この場合、緊急⼿術が必要となることがあります。
ただし、胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍の⽅の10〜30%は無症状で、偶然に発⾒されケースがあります。
定期的な検診や内視鏡検査を受けて、吐⾎や穿孔(腸に⽳があく)といった重症な合併症を未然 に防ぎましょう。
胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍を疑うチェックポイント
症状チェックリストとして、こちらの胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍を疑うチェックポイントに該当する項⽬がないか、ご確認ください。
このような危険な症状・エピソードを認める場合、なるべく早めに消化器内科を受診しましょう。
胃潰瘍と⼗⼆指腸潰瘍の⽐較
できやすい年齢・症状・合併症に関しては、
それぞれ以下のような特徴があります。
胃潰瘍 | 十二指腸潰瘍 | |
---|---|---|
できやすい 年齢 (好発年齢) |
40〜60歳 | 20〜40歳 |
症状 | 食直後の胃痛、胸やけ、吐き気・嘔吐、お腹の張り | 空腹時・夜間の胃痛、吐き気・嘔吐、お腹の張り |
合併症 |
|
|
胃潰瘍・十二指腸潰瘍の検査・診断
胃潰瘍、⼗⼆指腸潰瘍は、以下の検査を⾏うことで診断していきます。
- ⾎液検査
- 尿検査
- 胃内視鏡検査(胃カメラ)
- 胃バリウム検査
痛み⽌めであるNSAIDsによる潰瘍は、浅く・多発する傾向があります。
以下にそれぞれの検査に関して順に説明していきます。
- ⾎液検査
- 尿検査
炎症や貧⾎の度合いを評価します。
貧⾎を認める場合、ヘモグロビン(Hb)が7.0 g/ dL以下であれば輸⾎を検討します。
また、⾎液・尿検査でピロリ菌の有無を評価します。
- 胃内視鏡検査(胃カメラ)
- 胃バリウム検査(レントゲン検査)
胃カメラ、胃バリウム検査で、潰瘍の有無を評価します。
通常、診断精度の⾯から、胃カメラ検査が選択されます。
検診などのバリウム検査で、胃・⼗⼆指腸潰瘍と診断された場合、胃カメラ検査を⾏って診断を確定させます。
吐⾎・下⾎、⿊⾊便を認める場合、緊急で胃カメラを⾏って、治療(内視鏡的⽌⾎)を⾏うこともあります。
当クリニックの胃カメラは、ほぼ全例において点滴での鎮静剤(静脈⿇酔)の使⽤を基本としており、苦痛のない胃カメラを追求しています。
お気軽にご相談ください。
※当院では、全例において、人工知能(AI)を搭載した胃カメラで観察を行っております。
良性潰瘍とがんについて
胃や⼗⼆指腸などの消化管にできる潰瘍は
- 良性潰瘍
- がん(悪性潰瘍)
の2種類があります。
ピロリ菌、痛み⽌め(NSAIDs、ストレスなどでできる潰瘍は良性潰瘍です。
良性の胃潰瘍や⼗⼆指腸潰瘍が慢性的にあっても、がん化することはありません。
しかし、胃がんが原因で⽣じる悪性潰瘍があるため、注意が必要です。
実際のがんによる潰瘍と良性潰瘍を⾒ていきましょう。
胃がんの内視鏡画像
下の内視鏡画像は、がん(悪性潰瘍)です。
病変から組織を採取(⽣検)し、胃がんの診断となり、外科的⼿術が⾏われました。
胃潰瘍(良性潰瘍)の内視鏡画像
下の内視鏡画像は「良性潰瘍」です。
良性潰瘍であっても、がんと⾒分けがつきにくい場合には、⽣検を⾏います。
胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍の分類(ステージ)
胃・⼗⼆指腸にできた傷は、その深さによって
傷が浅いものは「びらん」
傷が深いものは「潰瘍」
と分類されます。
胃潰瘍は3つのステージに分類され、以下のように経過していきます。
➀活動期(active stage) | ステージ A |
---|---|
➁治癒期(healing stage) | ステージ H |
➂瘢痕期(scarring stage) | ステージ S |
各ステージはさらに、それぞれ2つに分類されて「A1 A2 H1 H2 S1 S2 」の計6つに分けられます。
胃カメラを⾏うことで現在、どの段階にいるのかを判断し、潰瘍が治癒するまでのおおよその期間が判断できます。
ほとんどの潰瘍は、
ステージ A・ステージ Hの期間中に、胃痛や吐き気、⿊⾊便などの症状が認められます。
ステージ Sでは、⾃覚症状はほとんどありません。
⼀般的に、胃潰瘍が活動期(Stage A)の状態の時点から治療を⾏い、約6〜8週間で完治となります。
⼗⼆指腸潰瘍の場合、胆汁の刺激があることから胃潰瘍より治りが悪いとわれています。
胃潰瘍より、2週間程度⻑く胃薬を内服する必要があります。
胃潰瘍の内視鏡画像(NSAIDs潰瘍)
この胃潰瘍は、Stage A1の潰瘍になります。
原因は、痛み⽌め(NSAIDs)の内服でした。
⼗⼆指腸潰瘍の内視鏡画像
この⼗⼆指腸潰瘍は、Stage A1相当の潰瘍です。
潰瘍のなかに、⾎の塊(かたまり)があります。
この凝⾎塊を剥がしたところに、⾎管を認めたため、内視鏡で⽌⾎処置を⾏いました。
胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍の治療・治し⽅
胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍の治療は
- 潰瘍⾃体の治療
- 合併症に対する治療
- 原因の除去
- ⽇常⽣活の改善(対処法)
を⾏います。
1. 潰瘍⾃体の治療
酸分泌抑制薬の内服がメインになります。
薬を服⽤することで症状⾃体は2、3⽇で治ります。
潰瘍を完全に治すためには、
胃潰瘍では6週間
⼗⼆指腸潰瘍では8週間
の内服が必要になります。
酸分泌抑制薬には、再出⾎の予防効果があるため、出⾎している潰瘍を⽌⾎した後にも、内服し ます。
潰瘍の治療薬(内服薬)の⼀覧を以下にお⽰しします。
潰瘍の治療薬(内服薬)の⼀覧
2. 原因の除去
3. 胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍の対処法
⾷事に関して
酸分泌抑制薬を内服していると、⾷事の影響はほとんど受けませんので、⾷べてはいけないもの はありません。
そのため、コーヒー・紅茶、アルコール類なども適量であれば、問題なく飲むことができます。 ただし、症状が強く出ている場合には摂取を控えましょう。
また、暴飲・暴⾷は避けましょう。
おすすめする⾷べ物、気をつけたほうがよい⾷べ物の⼀覧
おすすめする⾷べ物、気をつけたほうがよい⾷べ物の⼀覧として、以下のものがあります。
○消化の良いもの | ✕気をつける食べ物 |
---|---|
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タバコ(喫煙)に関して
喫煙は胃潰瘍のリスクの1つと考えられており、治療中・治療後もなるべく控えたほうがよいです。
⽣活⾯に関して
⼗分な睡眠時間を確保し、規則正しい⽣活を⾏うことで、ストレス解消に努め、⽇常⽣活全般の改善を図るようにしましょう。
胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍の治療後について
胃潰瘍では6週間、⼗⼆指腸潰瘍は8週間、胃薬(PPI・PCAB)を飲むことで、潰瘍は治癒します。
その後の再発を予防する⽬的で、
胃潰瘍では1年間
⼗⼆指腸潰瘍では2年間
胃薬(H2ブロッカー)を内服することが推奨されています。
潰瘍の治療後に補助的に漢⽅薬を使⽤することもあります。
潰瘍が治ったと思っていても、
- ストレスを取り除くのが難しい
- 痛み⽌めやお酒を飲む習慣がある
- もともとの性格が根づいてしまっている
という理由から、再発しやすいことも特徴です。
再発や悪性化の有無を評価するために、胃潰瘍の治療を始めてから6ヶ⽉〜1年以内に再度、胃カメラを⾏うことが推奨されています。
まとめ
⽇本では⾼齢化により、痛み⽌め(NSAIDs)を服⽤する機会が多く、ストレス社会の影響もあり、胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍になりやすいといえます。
胃潰瘍、⼗⼆指腸潰瘍では、腹痛や背中の痛みが起こるだけでなく、吐⾎や下⾎といった出⾎を起こし、輸⾎が必要になるケースもあります。
また、⼀般的な胃腸炎とは異なり、⾃然治癒は期待できず、市販の胃薬で改善しないケースが多くあります。
腹痛、吐き気、胸焼け、げっぷなどの症状が続いている場合、まずは消化器内科へ受診しましょう。
参考⽂献:
胃と腸アトラスⅠ 上部消化管 第2版 医学書院
内視鏡診断のプロセスと疾患別内視鏡像-上部消化管 改定第4版 ⽇本メディカルセンター
最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針 中⼭書店
⽇本消化器病学会 消化性潰瘍診療ガイドライン 2020 (改訂第3版)
https://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/pdf/syoukasei2020.pdf
⽇本消化器病学会 患者さんと家族のための消化性潰瘍ガイドブック
https://www.jsge.or.jp/files/uploads/02_kaiyou.pdf
⽇本医師会 健康の森 胃潰瘍・⼗⼆指腸潰瘍
https://www.med.or.jp/forest/check/ulcer/04.html
⽇本消化器病学会ガイドライン 消化性潰瘍
https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/kaiyou.html