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いぼ痔

いぼ痔とは

いぼ痔(ぢ)とは、排便時のいきみなどで生じる直腸の静脈の瘤(こぶ)のことです。
医学用語では、痔核(じかく)といいます。
いぼ痔では、肛門からイボが出ているという訴えが多いです。
しかし、実際に診察をしてみると、肛門から出ているイボが痔ではなく、「肛門がん」や「直腸がん」であったというケースがあるため、注意が必要です。

いぼ痔の正体は、静脈という血管の瘤(静脈瘤)です。
直腸の血管(静脈)に血液が停滞することで、静脈の瘤(こぶ)が形成されます。

いぼ痔は、肛門の病気で最も多い病気であり、どの年齢層にも起こりますが、45歳〜65歳にピークがあります。
いぼ痔が切れることで、出血を生じて、便器が真っ赤になることがあります。
おしりの穴からいぼが出ている場合や、出血している場合には一度、大腸・肛門の診療を行っている消化器内科で診察を受けるようにしましょう。

いぼ痔に関して、実際の内視鏡写真や薬・治し方などの細かい情報まで、消化器病専門医・内視鏡専門医・胃腸科専門医である院長が、分かりやすく・詳細に解説していきます。

痔の種類

痔は、主に①いぼ痔、②切れ痔、③痔ろうという3種類に分けられます。
いぼ痔が

  • 肛門の内側にできる場合を内痔核(ないじかく)
  • 外側にできる場合を外痔核(がいじかく)

といいます。
内痔核が肛門の外に飛び出すことを脱肛(だっこう)といいます。
一般的に脱肛は手で押し込むと、肛門内に戻ります。
内痔核が手で押し込んで戻らなくなった場合は、手術を検討します。

痔ろうとは?

痔ろう(痔瘻)とは、直腸と皮膚にトンネルを作る痔のことです。
直腸や肛門周囲で細菌感染が繰り返されることで形成されます。
30歳〜40歳代の男性に多いという特徴があります。

痔ろうは、通常のいぼ痔・切れ痔とは異なり、

が原因になります。
初期症状は、突然生じる肛門まわりの痛み・発赤・腫れです。
痔ろうが続くと、肛門のまわりに激しい痛みが持続し、痛みで座れなくなります。
また、発熱を伴い、膿みの排出を認めます。
膿みは独特な匂いがあります。

痔ろうは自然治癒することはなく、放置することで悪化していきます。
また、痔ろうを10年以上放置することでがん(痔ろうがん)が発生することがわかっています。
疑わしい場合には、なるべく早く大腸・肛門の診療を行っている消化器内科へ受診しましょう。

いぼ痔の原因

 

いぼ痔の原因は、肛門まわりの

  1. 静脈に血がうっ血すること
  2. 筋肉などの支持組織が弱くなること

が挙げられます。

痔になる具体的な原因は以下のものがあります。

  • 排便時のいきみ
  • 野菜(食物繊維)が少ない食生活
  • 重いものを持ち上げる作業
  • 長時間のデスクワーク
  • 妊娠・出産
  • 慢性下痢

野菜(食物繊維)が少ない食生活は、慢性的な便秘を引き起こし、排便時にいきむようになります。
また、重いもの、妊娠・出産などの腹圧がかかることが、痔のリスクとなります。
デスクワークなどで、同じ姿勢で座る時間が長時間続くと、お尻の血流が悪くなり、肛門近くの血管に血液が溜まってしまい、いぼ痔ができやすくなります。
慢性下痢は、腸のなかの圧力(腸管内圧)を高めるため、直腸の血流が悪くなります。
頻回の下痢は、いぼ痔以外に、切れ痔(裂肛)を起こしやすいという特徴があります。
尚、痔に関しては、親から遺伝することはありません。

いぼ痔の症状

いぼ痔の初期症状はありません。
そのため、初期のいぼ痔は大腸カメラで偶然、見つかることがほとんどです。

いぼ痔が進行していくことで、以下の症状がみられるようになります。

  • 血便・下血
  • 肛門の痛み
  • 脱肛(だっこう)
  • 腫れ
  • 痒み(かゆみ)
  • 粘液が出る

血便・下血は真っ赤な鮮血であることが多く、排便時にみられることが多いです。
出血量は痔の大きさによって少量〜多量までさまざまです。

肛門の痛みは、

  1. 血栓性外痔核
  2. 嵌頓痔核

のいずれかで生じることが多いです。(いぼ痔の合併症で解説します。)
痛みは数日間持続し、次第に軽減されるという特徴があります。

脱肛は痔が肛門から外に飛び出ることで、排便時のいきみで起きやすいです。
その他、運動時、歩行時、重いものを持った際などに起こることがあります。

かゆみや粘液も、痔に伴って生じます。
粘液は「かゆい汁」・「くさい汁」が出てくると表現されるケースが多いです。
実際には、便や粘液が痔に付着することでかゆみが生じます。
また、トイレットペーパーで肛門を拭きすぎてしまうことで、痔が傷ついて、かゆみを引き起こしている場合もあります。

いぼ痔は血管の瘤(こぶ)であるため、触ると「ぷにぷに」とやわらかい感触があり、触った時に痛みがないのが特徴です。

いぼ痔の合併症

いぼ痔の合併症として、

  1. 嵌頓痔核(かんとんじかく)
  2. 血栓性外痔核

があります。
いずれも患部が腫れて、強い痛みを伴います。

嵌頓痔核(かんとんじかく)

通常の内痔核では、痛みはありません。
肛門の外に飛び出した内痔核が、絞められることでうっ血し、肛門の中へ戻らなくなってしまった状態を嵌頓(かんとん)痔核といいます。
この場合には、内痔核でも激しい痛みを伴います。

血栓性外痔核

血栓(けっせん)とよばれる血の塊が血管内で血流を塞ぐことで、外痔核が腫れてくることを血栓性外痔核といいます。
大豆ほどの大きさで、暗紫色の血栓が見えます。
突然の激しい痛みを伴うことが特徴です。

いぼ痔の検査・診断

いぼ痔を診断する検査としては、以下のものがあります。

  • 視診
  • 直腸診
  • 肛門鏡
  • 大腸内視鏡検査(大腸カメラ)

いぼ痔を診断するには、直接、病変を見る(視診)ことが重要です。
肛門の外に病変がある場合は、視診を行うことで痔の種類を判断できます。
また、肛門から直腸を指で診察する(直腸診)を行うことで、内痔核がある場合は「やわらかいコブ」として触知できます。
肛門鏡・大腸カメラでは、肛門から直腸までを直接観察することで外痔核・内痔核を診断できます。

大腸カメラでは、直腸潰瘍、大腸ポリープ、肛門がん、直腸がんなどの痔以外の出血源を診断することが可能です。

いぼ痔の内視鏡画像

まず、いぼ痔がない正常な内視鏡画像をお見せします。

こちらの画像は、大腸カメラを肛門のところで反転させて撮影しています。
(黒い部分は大腸カメラになります。)
肛門のまわりは茶色で、盛り上がりはなく、なだらかです。

こちらがいぼ痔の内視鏡画像です。

肛門の周りには青黒い盛り上がりがいくつか確認できます。
これが「いぼ痔」です。
いぼ痔は血管の瘤(こぶ)であるため、便の物理的な刺激で切れてしまうと、出血を生じます。

いぼ痔の治療・治し方

いぼ痔の治療は

  1. 生活習慣の改善
  2. 薬物療法
  3. 外科的手術

があります。
まずは、生活習慣の改善と薬物療法を行います。
いぼ痔からの出血自体は、治療して数日で治ります。
一方で、いぼ痔自体を治すのには、数ヶ月から数年単位の時間かかかります。

生活習慣の改善

いぼ痔を自然治癒させるためには、生活習慣の改善が非常に大切です。

  • 野菜などの食物繊維を多く摂る
  • デスクワーク中に、お尻を椅子から片方ずつ浮かす・適度に席を立つ
  • 排便の際に、いきまないようにする
  • 排便後に執拗にトイレットペーパーで拭きすぎない
  • シャワーの際に洗いすぎない
  • 整腸剤を服用する

排便の際にいきんでしまう場合や、固い便が出る場合には、便を柔らかくする下剤を服用して、便通をコントロールしましょう。

また、いぼ痔があることを気にしすぎてしまい、排便後に執拗にトイレットペーパーで拭きすぎてしまったり、シャワーの際に洗いすぎてしまうことで、かえって痔を傷つけてしまっているケースがあります。
適度に行うようにしましょう。

慢性的に下痢が続く方は、まずは整腸剤を内服しましょう。
市販の整腸剤で改善しない場合には、過敏性腸症候群などの病気が隠れている可能性があります。
症状が持続する場合は、一度消化器内科へ受診するようにしましょう。

薬物治療

いぼ痔の薬物療法には、内服薬、外用薬(軟膏、座薬)、下剤、漢方薬があります。
それぞれについて、順に説明していきます。

  • 内服薬
  • 外用薬(座薬・軟膏)

薬物治療は、痛み、腫れ、出血の緩和には効果があります。
具体的には内服薬と外用薬(軟膏・座薬)を使用します。

内服薬は

  • 炎症を抑える薬(ヘモナーゼ)
  • 血流を良くする薬(ヘモリンガル)
  • 出血を抑える薬(ヘモクロン)

などを使用します。

外用薬には①座薬と②軟膏があります。
①座薬は直腸内で溶けて作用するため、主に内痔核に使用されます。
②軟膏は主に外痔核で使用され、患部に直接塗ることで、効果が十分に発揮されます。
痛みが強い場合には、表面麻酔薬入りのものを選択し、
腫れがひどい場合には、ステロイド入りのものを選択します。

しかし、内痔核が飛び出る脱肛を治す効果はありません。
脱肛の予防には、生活習慣の改善が重要になります。

  • 下剤
  • 漢方薬

慢性的な便秘の方や、排便時にいきんでしまう方には、便をやわらかくして、便通をコントロールするために下剤や漢方薬を使用します。
下剤はいずれも即効性がありますが、
刺激性下剤・浣腸は、耐性や依存(くせになる)があるため、注意が必要です。
刺激性下剤や浣腸を使用する場合は、短期間の投与か、頓服での内服にしましょう。
継続的に服用する場合、非刺激性の下剤を内服していくことを推奨します。

新しく開発された下剤である

  • 上皮機能変容薬
  • 胆汁酸トランスポーター阻害薬

などは、非刺激性の下剤で、効果があり耐性や依存がなく、副作用が少ないことが特徴です。

主な下剤の一覧を以下にお示しします。

下剤の一覧

便秘で使用する漢方薬の一覧を以下にお示しします。

漢方薬の一覧

漢方薬 改善させる症状
大黄甘草湯 便秘
桃核承気湯 イライラを伴う便秘
防風通聖散 イライラを伴う便秘
桂枝加芍薬大黄湯 お腹の張り、便秘
大建中湯 お腹の張り、便秘
麻子仁丸 高齢者の便秘
順腸湯 高齢者の便秘
大紫胡湯 上腹部痛を伴う便秘

これらの漢方薬を症状に合わせて組み合わせていきます。

外科的手術

内痔核で、いきんだ際に脱出し、手で押し込むことが必要になる場合には手術を考慮します。
結紮切除(縛って切る)、ゴム輪結紮、硬化療法、分離結紮などの手術方法があります。
また、脱出した内痔核に対しては、ALTAを用いた局所注射(ALTA療法)が有効です。

手術が必要な「いぼ痔」の内視鏡画像

下にお示ししているのが、いぼ痔の末期の内視鏡写真になります。
肛門のまわりに青黒い「いぼ痔」がいくつか認められます。
いぼ痔の表面には、拡張した血管が認められます。
いぼ痔がここまで大きくなり、出血の症状が頻回である場合や、手で押し込んでも戻らなくなった場合などは、外科的手術で痔の切除が行われます。

いぼ痔の対処法

いぼ痔を悪化させない・新しく作らない、
もしくは再発させないために日常生活でできる対策は、
便秘にならないようにしていくことです。

日常生活の改善

日常生活でのストレスや生活の乱れ、運動不足が便秘を引き起こすため、

  • ストレスの軽減
  • 食物繊維を多く食べる
  • 十分な睡眠時間を確保する
  • 有酸素運動・体幹のストレッチを行う

など、規則正しい生活を行うことが大切です。

食生活の改善

日々の食生活を改善させることも重要です。
以下の点に気をつけましょう。

  • 肉類の摂り過ぎに注意する
  • 食物繊維の多い野菜、食べ物を摂取する
  • ノンカフェインのお茶(麦茶・ほうじ茶)を飲むようにする
  • 腸内環境(腸内フローラ)を改善する
  • プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌、酪酸菌)を取り入れる

また、飲酒(アルコール)は、お尻への血流も良くするため、痛みや出血が悪化させる可能性があります。お酒の飲み過ぎには注意しましょう。
改善方法の詳細については、便秘の記事をご参照下さい。

まとめ

いぼ痔は、肛門の病気で最も多い病気であり、病院へ受診せず、気になっている方は多くいらっしゃると思います。
軽度の痔であれば、痛みもなく出血が少量であるため、ほとんど日常生活に支障をきたすことはないです。
一方で、嵌頓痔核や血栓性外痔核になってしまうと、強い痛みを伴い、外科的な治療が必要となることもあります。

また、いぼ痔だと思っていて、実際に検査してみたら、「直腸がん」・「肛門がん」であったというケースも少なくありません。
肛門の出血や痛みで気になることがあれば、お気軽に当クリニックへご相談ください。

参考文献:

今日の消化器疾患治療指針 第3版 医学書院

胃と腸 第53巻 第7号 知っておきたい直腸肛門部病変 医学書院
胃と腸アトラスⅡ 下部消化管 第2版 医学書院
内視鏡診断のプロセスと疾患別内視鏡像-下部消化管 改訂第4版 日本メディカルセンター

胃と腸 第54巻 第5号 消化管疾患の分類 2019 医学書院
日本大腸肛門病学会 肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン 2020年版 改訂第2版
https://www.coloproctology.gr.jp/uploads/files/journal/koumonshikkan_guideline2020.pdf
健栄製薬 便秘に効くといわれている食べ物を紹介!食生活を改善しよう
https://www.kenei-pharm.com/ebenpi/column/column_50/

院長 鈴木 謙一(Kenichi Suzuki)

この記事の執筆者

院長 鈴木 謙一

略歴・役職

  • 埼玉医科大学医学部 卒業
  • 昭和大学横浜市北部病院消化器センター 助教
  • 山梨赤十字病院 消化器内科 医長
  • 磯子中央病院 内科(消化器内科) 医長
  • 2024年 横浜ベイクォーター内科・消化器内視鏡クリニック 横浜駅院 開業

所属学会・資格

  • 日本消化器病学会認定 消化器病専門医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
  • 日本消化管学会認定 胃腸科専門医
  • 日本内科学会認定 認定内科医
  • 神奈川県横浜市指定 難病指定医
  • 日本ヘリコバクター学会認定 H.pylori(ピロリ菌)感染症認定医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 上部消化管内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 大腸内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本抗加齢(アンチエイジング)学会 会員
  • American Society for Gastrointestinal Endoscopy member
  • United European Gastroenrerology member