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体重減少

体重減少とは

医学的に問題となる体重減少とは、半年から1年のあいだに
① 4, 5 kgの体重減少、もしくは② 5.0 %以上の体重減少になります。
いずれかの条件を満たす際には、病気が隠れている可能性が高く、精査を行う目安となります。

もともと痩せている方は、急に体重が落ちたり、食べても体重が落ちてしまう場合、病的な体重減少と判断します。

体重減少には、さまざまな臓器や代謝が関係しており、原因は多岐にわたります。
最近は、ストレスにより食欲不振が生じて、体重が減少するケースが多く見受けられます。
一方で、若い女性で「気にしすぎかな?」と思われる方で、ホルモン異常などが発覚するケースもあります。
40歳代からは、胃がん、大腸がん、すい臓がんなどによって、急に数ヶ月で体重が落ちることもあります。
体重減少でお困りの場合、まずは内科・消化器内科へ受診しましょう。

体重減少に関して、体重減少率の計算方法や、原因となる病気などの細かい情報まで、消化器病専門医・内視鏡専門医・胃腸科専門医である院長が、分かりやすく・詳細に解説していきます。

体重減少とは

体重減少に伴う症状

体重減少以外に症状を伴っている場合は、病気が隠れている可能性が高いです。
体重減少に伴う主な症状の一覧を以下にお示しします。

体重減少に伴う症状 考えられる病気
吐き気
嘔吐
気持ち悪い
胃潰瘍・十二指腸潰瘍、腸閉塞(イレウス)、食道がん、胃がん、すい臓がん、大腸がん、機能性ディスペプシア、うつ病、自律神経失調症 など
胸焼け 胃食道逆流症、逆流性食道炎、食道アカラシア、食道がん、胃がん、機能性ディスペプシア、自律神経失調症 など
腹痛 胃潰瘍・十二指腸潰瘍、慢性便秘、胃がん、すい臓がん、大腸がん など
黄疸
(皮膚・目が黄色い)
すい臓がん、胆管がん、肝細胞がん など
発熱 細菌感染、各種がん など
動悸 甲状腺機能亢進症、自律神経失調症、うつ病 など
むくみ 肝細胞がん、糖尿病性腎症 など
貧血 胃潰瘍、十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、クローン病、食道がん、胃がん、大腸がん など


また、女性のダイエットが原因で、5kg以上体重が減少することで、無月経になります。

体重減少で緊急性が高い状態とは?

体重減少に伴い、以下のチェックポイントに該当する症状がある場合、緊急を要する状態である可能性があります。

このような症状を認める場合、すぐに医療機関へ受診しましょう。

体重減少率とBMIの計算方法

体重減少は、半年から1年間のあいだに、

  1. 4, 5 kgの体重減少がある
  2. 体重減少率が5 %以上

のいずれかが該当する場合、病的な体重減少といわれています。
この場合、病気が隠れている可能性が高いです。

体重減少率の計算方法は、以下になります。
体重減少率 =(ふだんの体重 − 現在の体重) ÷ ふだんの体重 × 100

この数値が
5以上であれば、病的な体重減少、
2〜3程度であれば、軽度の体重減少
となります。

また、日本肥満学会では、

BMIが18.5以下が低体重(やせ)
20〜24.9が標準
25以上が肥満

と定義しています。(適正体重はBMI:22です)
BMIの計算方法は、以下になります。

BMI =体重[kg] ÷ 身長[m] ÷ 身長[m]

もともとのBMIが低い方は、体重減少率が少なくても、病的な体重減少の可能性があります。

BMIは、こちらのサイト(https://keisan.casio.jp/exec/system/1161228732)から計算が可能です。

体重減少の原因となる病気

体重が落ちる原因を考える際に重要なのは、「食欲不振を伴うか」どうかです。
食欲があるかどうかを踏まえて、体重減少の原因は大きく3つに分けられます。

  1. 食欲不振があり、体重減少がある
  2. 食欲不振があるが、軽度の体重減少にとどまる
  3. 食欲があって食べているが、体重減少がある

1つずつ順に説明していきます。

①食欲不振があり、体重減少がある

この場合、以下の病気や異常が考えられます。

原因となる異常 考えられる病気
消化器の病気 胃潰瘍、十二指腸潰瘍、腸閉塞、潰瘍性大腸炎、クローン病、慢性便秘 など
がん
(悪性腫瘍)
食道がん、胃がん、大腸がん、すい臓がん、肺がん、膀胱がん、白血病、悪性リンパ腫 など
ホルモン・
代謝異常
甲状腺機能低下症、下垂体前葉機能低下症、副腎皮質機能低下症、褐色細胞腫 など
ミネラルバランスの異常 高カルシウム血症、低カリウム血症 など
精神的な病気 うつ病、神経性食思不振症、拒食症、自律神経失調症、アルコール依存症、認知症 など

がん(悪性腫瘍)

このなかで最も注意が必要なのが、がん(悪性腫瘍)です。
がんの場合、食欲不振や体重減少だけが症状として出てくることも少なくありません。


食道がんの内視鏡画像
食道がんの内視鏡画像

胃がんの内視鏡画像
胃がんの内視鏡画像

大腸がんの内視鏡画像

特にすい臓がんや白血病・悪性リンパ腫などの血液のがんでは、体重減少以外に自覚症状がなかったり、乏しいことが特徴です。
また、体重減少率とBMIを用いた検証で、がんの患者様の体重減少率が高ければ高いほど、その後の予後が悪くなることが報告されています。

病気以外でも、以下の要因で体重減少が生じます。

  • 妊娠(つわり)
  • ストレス
  • 自律神経の乱れ
  • ストレス、うつ状態

これらの状態でも、食欲不振を伴った体重減少を生じます。

②食欲不振があるが、軽度の体重減少にとどまる

軽度の体重減少とは、おおむね1, 2 kg以内もしくは2〜3%以内の体重減少が目安となります。

この場合、以下の病気の可能性が考えられます。
いずれの病気も重症例を除き、それほど体重減少をきたさないことが一般的です。

  1. 機能性ディスペプシア
  2. 胃食道逆流症(GERD)・逆流性食道炎
  3. 食道アカラシア  など

1つずつ順に説明していきます。

機能性ディスペプシア

機能性ディスペプシアとは、胃の痛みや胃もたれなどがあるにもかかわらず、検査を行っても異常がみつからない病気です。
緊張やストレス、気分の落ち込み、自律神経の乱れ、うつ状態などとの関連があります。
症状は、軽度の体重減少のほか、胃痛、食後のもたれ感や・灼熱感、げっぷ、吐き気、めまいなどが慢性的に続くことが特徴です。
市販薬の胃薬や痛み止めで改善しないことが多く、治ったと思っても慢性的に症状が続きます。

 

胃食道逆流症(GERD)・逆流性食道炎

逆流性食道炎とは、胃酸や胆汁が食道へ逆流することで、食道に炎症が生じる病気です。
逆流性食道炎を放置して胃酸の逆流が長く続くと、バレット食道という食道がんの原因にもなる変化を起こし、食道がんのリスクが高くなります。
症状としては軽度の体重減少のほか、胸焼け、呑酸感(どんさんかん)、食べ物がつかえる、咳が出る、声がかすれるなどが生じます。
胃食道逆流症(GERD)・逆流性食道炎

食道アカラシア

食道アカラシアは、食道の動きが悪くなり、食べ物や飲み物がうまく飲み込めなくなる病気です。
これは食道の神経が機能しなくなることで生じ、軽度の体重減少、飲み込みにくさ、胸焼け、胸の痛み(胃痛)などの症状があらわれます。
食道アカラシアの約5%の方は、食道がんを合併するといわれています。

③食欲があって食べているが、体重減少がある

この場合、代謝が異常に上がってしまっていたり、栄養の吸収障害が起きている可能性が考えられます。

食欲があり体重減少が進むケースでは、以下の病気の可能性が考えられます。

  1. 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
  2. 糖尿病
  3. 吸収不良症候群
  4. 潰瘍性大腸炎
  5. クローン病  など

1つずつ順に説明していきます。

甲状腺機能亢進症(バセドウ病)

甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。
20〜50歳代に多く、男女比は1:4と女性に多いことが特徴です。
症状として、体重減少のほかに、頻脈(動悸)、手の指のふるえ、発汗の増加(多汗)、下痢などをきたします。
また、疲れやすい、イライラする、女性では生理が止まる(無月経)といった症状が出ます。
甲状腺が大きくなり、喉仏のすぐ下が全体的に腫れてきたり、目が突出して完全に閉じれなくなったりします。

糖尿病

糖尿病とは、血糖を下げるホルモンである「インスリン」が体内で不足することで血糖が上がり、内臓や免疫機能にさまざまな障害を起こす病気です。
肥満、運動不足、ストレスなどの生活習慣が原因になります。
糖尿病の症状として、体重減少のほかに、のどが渇き水を飲むようになり(多飲)、尿の量が多くなります(多尿)。
糖尿病を未治療で放置しておくと、脱水や意識障害を生じ、命の危険に関わります。
また、合併症として神経障害、目の病気(網膜症)や、腎不全となり透析が必要となることもあります。

吸収不良症候群

腸から糖質、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラル、水などの吸収不良が起こり、さまざまな症状を引き起こす病気です。
吸収不良症候群の原因は、以下のものがあります。

  • 胃や小腸切除後など物理的に吸収できない状態
  • 腸の炎症や粘膜の障害で吸収できなくなるクローン病・アミロイドーシス
  • 乳糖の吸収ができなくなる乳糖不耐症
  • 副甲状腺機能低下症・WDHA症候群などのホルモン異常

などがあります。
吸収不良症候群の診断には、血液検査や消化吸収試験を行います。

潰瘍性大腸炎

クローン病

潰瘍性大腸炎は直腸から上のほう(口側)に連続的に広がっていく病気です。
クローン病は口から肛門までの全消化管に炎症が起こる可能性がある病気です。
いずれも、国が特定疾患(いわゆる難病)に指定しています。
炎症性腸疾患では、腸に炎症が起こることで栄養が吸収できなくなり、体重減少を生じます。

潰瘍性大腸炎の症状は、血便、粘液便(ねばねばした便)、下痢、腹痛などがあります。
潰瘍性大腸炎

クローン病の症状は、下痢、腹痛(右下腹部痛)、だるさ、貧血、肛門の違和感や痛みなどがあります。
クローン病

体重減少の検査・診断

まずは問診を行い、内服している薬やストレスの有無を評価します。
体重減少の原因となっている病気を診断するために、以下の検査を患者様の状態に合わせて行います。

  • 血液検査
  • 尿検査
  • 腹部レントゲン検査
  • 胃内視鏡検査(胃カメラ)
  • 大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
  • 超音波検査(エコー)
  • CT検査
  • MRI検査

血液検査で、炎症や貧血の度合いやホルモン、ミネラルバランスなどを評価します。

胃カメラ大腸カメラ検査では、がん(悪性腫瘍)、逆流性食道炎、食道アカラシア、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、クローン病などの有無や状態を評価していきます。

実際の胃カメラ動画

実際に口から胃カメラを入れてどのように観察しているかを見ていきましょう。
当クリニックで行っている観察方法をご説明致します。


問診から、肝臓・すい臓の病気が疑われる場合、腹部エコーや腹部CT・MRIを検討します。

検査にて異常がないにも関わらず、体重減少が続いている場合には、機能性ディスペプシアやストレスによる影響を考えます。

体重減少の治療

検査で診断がつけば、その病気に対する治療を行います。
多くの場合、治療を行って病気が良くなることで、体重減少は改善します。

ストレスが原因で食欲低下・体重減少をきたしている場合、適度なストレスの発散や十分な睡眠時間の確保が有効です。
とはいえ、なかなかストレスが発散できなかったり、睡眠が浅かったりすることは少なくありません。
そうした場合、睡眠薬や抗精神薬などの安定剤を内服することで効果が期待できるケースがあります。

まとめ

「体重が少し落ちただけで、症状がないからストレスのせいだろう」と軽視される方をよく見かけます。

がんに伴う体重減少では、体重減少以外に症状がないことが多くあります。
がんが気づかないうちに進行していってしまうケースや、ほかの症状が出てきたときには手遅れになっているというケースもあります。
少しでも体重減少でお困りの場合は、当院へお気軽にご相談ください。

参考文献:

最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針 中山書店
日本臨床検査医学会 体重減少
https://www.jslm.org/books/guideline/05_06/020.pdf
日本糖尿病学会 糖尿病ってどんな病気?
http://www.jds.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=2
日本内分泌学会 バセドウ病
http://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=40
日本癌治療学会 体重減少率とbody mass indexによるがん悪液質リスク評価方法の検討
http://archive.jsco.or.jp/detail.php?sess_id=14818
日本消化器病学会ガイドライン 機能性ディスペプシア(FD) ガイド
https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/fd.html
日本内分泌学会 神経性やせ症
http://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=59

院長 鈴木 謙一(Kenichi Suzuki)

この記事の執筆者

院長 鈴木 謙一

略歴・役職

  • 埼玉医科大学医学部 卒業
  • 昭和大学横浜市北部病院消化器センター 助教
  • 山梨赤十字病院 消化器内科 医長
  • 磯子中央病院 内科(消化器内科) 医長
  • 2024年 横浜ベイクォーター内科・消化器内視鏡クリニック 横浜駅院 開業

所属学会・資格

  • 日本消化器病学会認定 消化器病専門医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
  • 日本消化管学会認定 胃腸科専門医
  • 日本内科学会認定 認定内科医
  • 神奈川県横浜市指定 難病指定医
  • 日本ヘリコバクター学会認定 H.pylori(ピロリ菌)感染症認定医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 上部消化管内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 大腸内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本抗加齢(アンチエイジング)学会 会員
  • American Society for Gastrointestinal Endoscopy member
  • United European Gastroenrerology member